全国各地に同じ名前の神社はたくさん。その理由と、特に多いお名前のルーツを知るコラム「名前でわかる神社の由来」。その(1)では、地域名にプラスして「八幡宮」「神明社」「稲荷社」「熊野神社」という名前をもつ4つの神社グループについて紹介。

今回(2)は、その続き。さらに、以下の4つの同じ名前をもつ有名な神社グループについて紹介する。
●天神様→「天満宮」「天神社」「北野神社」
●日本一の山、富士山をまつる→「浅間神社」
●山王さん→「日吉神社」「日枝神社」
出雲の神様だが関東に多い→「氷川神社」

きっと、今までに見たこと聞いたことのある神社も多いはず。いずれも、同じ名前が示すとおり別の場所にある総本社から分霊されてきて(ちなみに、このシステムのことを「勧請」と呼ぶ)、その場合もともとその土地を守ってきた神様と同じく「氏神様」になる。
つまり、知らないうちに守られているということだってありうるわけだ。

 

地域を守る「氏神様」とは

そもそも「氏神様」とは、氏族、つまり同じ一族のご先祖をまつった神社のことだった。
大昔の日本は一族がまとまって同じ土地に暮らしていたが、時代が進み、血縁がない人でも一緒に同じ地域で暮らすようになってくる。そこで地縁土地つながりの縁によって結ばれた人たちがまつる神様のことも「氏神様」と呼ぶようになった。

もともとの土地を守ってきた神様に加えて、分霊されて新しく来られた神様もまた土地の人がまつった神様なので、同じように土地を守る氏神様ということになる。
要するに、いま住んでいる自宅から一番近くにある神社にまつられている神様が氏神様、と考えればそれでいい。
その神社の神様が分霊によるものだったとしたら、縁遠いと思っていた土地にある総本社や各地に勧請された神社とも緩やかなご縁がつながっていることになる。

それでは具体的に、代表的な神社のお名前(神社グループ)について見ていこう。

 

学問の神様、菅原道真公をまつる「天神社」「天満宮」

      
天神さまを祀る全国約12,000社の総本宮。太宰府天満宮

 

いろんなところにある、なじみ深い神社の名前。「天神さま」と呼ばれる神社は、すべて菅原道真(すがわらのみちざね)公を神様としておまつりする「天神信仰」の神社だ。

平安時代の優れた学者にして政治家だった、菅原道真公。総本社は、生前に活躍の舞台となった京都の「北野天満宮」と、生涯を終えた地である九州の「太宰府天満宮」のふたつある。

     
京都にある「天神さま」の総本社、北野天満宮
 

菅原公は、その才能を妬んだ者たちによって左遷され、亡くなった後に京の都は落雷などの天変地異が続いたという。それは菅原公の無念のせいではないかと考えた当時の人々は、もともとあった火雷天神信仰と結び付けて、怒りを鎮めてもらうために神様としておまつりした。
これが、天神社のはじまりで
全国各地に広まっていき、「天満宮」「天神社」以外にも「北野神社」「菅原神社」などの名前になっていることもある。

天神さまといえば「学問の神様」として知られ、菅原公が梅の花をこよなく愛したことから神社には梅の木が植えられ、この花が神社のシンボル、ご神紋になっていることが多い。

 

日本一の山、富士山を神様として信仰する「浅間神社」

     
富士登山道の入り口に鎮座する、北口本宮富士浅間神社
 

日本を代表する山といえば富士山だが、その姿の美しさだけではなく、昔から霊山として信仰の対象にもなってきた。富士山を神様として崇め、おまつりする神社が「浅間神社」だ。

ご祭神は「コノハナサクヤヒメノミコト」という姫神。日本一有名な神様で天皇家の祖神とされる「アマテラスオオミカミ」の孫神にあたる「ニニギノミコト」が、姫のあまりの美しさに一目惚れして妻として迎えた、という神話が「古事記」などに残されている。

姫神の父親が、山の神「オオヤマツミノカミ」だったこと。さらに、燃え盛る屋敷のなかで皇子を産んだという神話が、火山である富士山と結びついたのではないかと考えられている。
浅間神社の総本社である世界文化遺産の「富士山本宮浅間大社」は、富士山の大噴火をきっかけに建てられたという。コノハナサクヤヒメがもたらした豊かな水によって富士山の噴火が鎮まったのだと、当時の人々は信じた。
こうした伝説から、安産や子宝、子育て、水徳から農業・漁港・航海の守護神として、浅間神社は全国各地でまつられるようになった。
美しい姫神から名付けられたという木が桜で、「富士山と桜」という日本を代表するイメージは、ここで結びつくことになる。

 

山王=山の神様をまつる「日吉神社」「日枝神社」

     
江戸の人々から「山王さん」と呼ばれた首都東京の守り神、日枝神社
 

山や川など日本の自然を司り、万物の生成発展を守護するという「オオヤマイクノカミ」。浅間神社のコノハナサクヤヒメの父神で強大な力をもつ、この神様をまつるのが「日吉(ひよし)神社」。「日枝(ひえ)神社」と呼ばれることもある。
いずれも山の王、「山王信仰」と呼ばれる同じグループで、総本社となる「日吉大社」は、滋賀県と京都府にまたがる比叡山にあり、仏教の天台宗および比叡山延暦寺の鎮守神とされている。
神様がお寺を守る?なんだか混乱しそうだが、神社は長い間、仏教とも密接に繋がってきた歴史があり、こんなことも実際あるのだ。

ちなみに、山の神様のお使い動物は「猿」。そのために、狛犬ではなく猿の像があるのが、山王信仰グループの神社の特徴のひとつだ。
東京都心にあり首都の守り神として最も有名な山王社である「日枝神社」にも、夫婦の猿の像が見られる。神様のお使いである「神猿」(まさる)は、語呂合わせで「魔が去る」「勝る」と信じられ、魔除けや開運のご利益があるとして人気者なのだそう。

 

関東に多いが出雲の神様をまつる「氷川神社」

    
縁結びの神様として人気、埼玉の小江戸・川越の川越氷川神社
 

前回(1)も含めて名前を挙げてきた神社グループは、すべて総本社が西日本にあり、歴史的にも西から広まってきた神様が多い。
例外的に総本社が埼玉県の大宮にあるのが「氷川神社」。埼玉のみならず、
首都圏および東京の人にとっては特になじみ深い神社名で、実際その多くが関東圏にある。

氷川神社のご祭神は、有名なヤマタノオロチ伝説をきっかけに結ばれた出雲の神様「スサノオノミコト」と「イナダヒメ」。さらに、その子孫で、出雲大社のご祭神である「オオナムチノミコト」も一緒にまつられている。

夫婦・家族の神様のため、縁結びのご利益で知られるが、古くは「武蔵国」と呼ばれた東京・埼玉一帯の開拓、特に治水には、出雲からきた人々が深く関わっていたらしい。「氷川」という神社の名前は、ヤマタノオロチ伝説を生んだ出雲の「簸川(ひかわ)」に由来するともいわれている。

 

同じ名前をもつ神社グループは、他にもまだまだある。例をあげると、「諏訪神社」「白山神社」「住吉神社」など。
また、神社の名前に入っていなくても、ひとつの神社に「八幡様」や「お稲荷さん」「北野神社」など複数の神様がまつられていることは普通にある。
かつては別々に分かれていた村や町が合併されてひとつになったり、神社も統合されて名前が変わっていたりすることも多い。

お参りに行くなら境内の摂社・末社にもご挨拶を。その方がご利益があるから、とよくいわれる。自分の近所にある神社を詳しく知るだけで、日本全国にご縁のある神社がたくさん誕生することにもなりそうだ。
遠くにある有名神社に出かけるのもいいが、まずは地元の氏神様から行ってみてはどうだろう。それと、出かけた先で神社を見かけたら、お名前とご由緒を見てみよう。ここは何グループの神社なのかな、なんて気にしてお参りしてみるのもまた面白いかもしれない。
 



原文/平井かおる(日本の神道文化研究会) 

イラスト/今井未知 www.michiimai.com
 


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