東京都日野市は、新選組副長・土方歳三の出生の地で新選組の主要メンバーが青春時代を過ごした場所として知られています。日野市では土方の命日5月11日に合わせ、毎年5月第2土曜・日曜に「ひの新選組まつり」を開催。2019年は没後150年の節目の年であり、会津から松平容保公のご子孫も駆けつけ例年以上の盛り上がりを見せました。

ひの新選組まつりの中でもいちばんの見どころが、「新選組隊士パレード」。全国から集まった400名以上の新選組ファンが、隊士に扮し甲州街道を練り歩きます。
勢い良く「えい、えい、おー」の勝鬨(かちどき)を上げる隊士の中で、ひときわ目立つ浅黄色の羽織をまとった女性がいました。勇ましい声で隊士たちを鼓舞する立ち姿は、かつて日野を歩いた土方歳三を想起させる凛々しさ。それもそのはず、彼女は2019年の「ミスター土方」、その人だったのです。

(撮影:橋爪崇弘さん)

「ひの新選組まつり」では、パレードを率いる組頭を毎年コンテストで決定する。2019年「ミスター土方」に選ばれたのは、大阪府在住の三宅一美さん。(撮影:井上博司さん)

ここ数年、アニメやゲームの影響もあり新選組に興味を持つ女性が増えています。そんなわけで、ひの新選組まつりには地元のみならず全国各地から数多くの新選組ファンが参加していました。

なかでも、まるで土方歳三が乗り移ったかのようにパレードを率いたミスター土方こと三宅一美さんからは、「ただ新選組が好き」という理由だけではおさまらない気迫を感じました。それはなぜ?彼女が新選組に魅せられたきっかけ、コンテストや日野にかける想いを伺って来ました。
 

───新選組と出会ったきっかけや、好きになった理由はどんなところにあるんでしょうか?

最初に新選組を知ったのは、小学5年生の頃。祖父の他愛のない嘘がきっかけだったんです。家にあった日本刀を、「これは新選組のものなんだよ」と教えられ、双子の妹と2人で「新選組ってなんだろう?」と興味を持ちました。でも10代の頃は、ここまでのめり込んではいなかったんです。

運命的な出会いがあったのは数年前のこと。京都の壬生寺へ参拝をし終えて帰ろうとしたとき、普段は遠いのでめったに行かないんですが、どうしても霊山歴史館に行かなきゃいけない、という気持ちになったんです。そうしたら偶然に旧前川邸の縁者の方がいらっしゃって、その当時、私の知らなかった新選組の歴史を教えてくださって。その時、この偶然の出会いを繋げていかなきゃ、という想いが芽生えたんです。それまではちょっとしか灯っていなかった「新選組が好き」という気持ちが、この出会いをきっかけにボン!と一気に燃え上がった感じですね。

双子の妹・智美さんは、実は2018年度のミスター土方。双子の姉妹が揃ってミスターに選ばれることは、今年で22回となるまつりの歴史の中でも初めてのこと。

───新選組のどんなところに魅力を感じているのでしょうか?

言葉に出したことを本当に成した、というところに憧れています。新選組の隊旗に描かれている「誠」という文字がありますよね、これって、「言葉にしたことを成す」と書くんです。農民から新選組になり、最終的には“ラストサムライ”と呼ばれるような存在になっていて……今の時代そんな人いるだろうか?と思って。新選組の貫きの美学は、本当にかっこいいと思います。私も信念を持って頑張らなきゃ、と思わせてくれます。

それから、日野という場所も私にとって特別ですね。この場所で土方さんは幼少から青年時代まで過ごしているので。近藤さん(近藤勇)、沖田さん(沖田総司)、源さん(井上源三郎)といった、日野にゆかりのある隊士の根本は、ここで作られたと思うんです。皆さん優しい方だと思うんですが、それぞれ貫きたいものがあって、それを行動に移せているのが凄い。よく知られた新選組のエピソードよりも、彼らの行動する覚悟や強さに惹かれます。

コンテストはパレード前日に行われる。コンテストの参加者はそれぞれ創意工夫し、新選組への熱い思いをぶつける。(撮影:井上博司さん)
 

───「ただ新選組が好き」なだけで終わらず、コンテストにまで参加しようと思ったのはなぜなんでしょうか?

私より先に新選組にはまっていた妹が、「ひの新選組まつり」のことを教えてくれたんです。それで日野が土方さん出生の場所だと知り、調べていくうちに新選組主要メンバーのゆかりの場所だということにも気付いて……。これはもう行かないわけにはいかない。
最初は「土方さんになりたい」というより、「土方さんの背中を追いたい」という気持ちが大きかったですね。何事も挑戦だ、と思って受けてみたのが5年前です。その時は、初挑戦で三番組長の斎藤一さん役をいただくことができました。それがきっかけで会津にも行ったりもして……。コンテストに挑戦したことで、ますます新選組が好きになりました。

───コンテストはかなりの激戦だと聞きました。どのようなパフォーマンスをしたのでしょうか?

一次審査では制限時間内に新選組への想いを発表するんです。私は今回、制限時間の中で早着替えを3回しました。1つ目は石田散薬を売っていた時代をイメージした服装、2つ目がだんだら模様の羽織、3つ目が洋装。石田村・京都・函館、という流れを経て、「土方さんの魂が日野に還ってくる」というコンセプトです。それから、今年が150年の節目の年なので、語呂合わせで「行こう」「良いご縁」という言葉を重ねました。これをどうやって簡潔にまとめるか、1年間かけて考え抜きました。昨年は一次審査で落ちてしまって、本当に悔しかったので……次は絶対にミスター土方に、と必死でしたね。

前回は妹がミスター土方に選ばれたんですが、嬉しいやら悔しいやらでボロボロ泣いてしまったんです。なので、今回ミスター土方として名前を呼ばれたときはいろんな感情がぶわっと出てきて、また泣いてしまいました。妹から繋げることができたという安心感もありましたし、落ちた人も含めてみんなが笑顔で送り出してくれるというのも本当に温かくて。

発表の瞬間。仲間たちの笑顔に見守られ、2019年度のミスター土方が決まった。(撮影:井上博司さん)
 

───パレードの時は、どんなことを心がけていたのでしょうか?

「土方さんの魂が日野に還ってくる」というのが私のコンセプトだったので、土方さんが新選組を率いて日野に戻ってきたらどんなことをしたいだろうか?というのを考えて振舞っていました。鬼の副長と呼ばれていますけど、故郷に戻ってきたら気が緩んで軽口のひとつくらい言うだろうな、と。あとは沿道の皆さんから声をかけられたら、「帰ってきたよ」という想いで言葉を返そう、と。パレードを見に来ていた方はいろんな方がいて、アニメやゲームなどいろんなコンテンツから新選組を知ったという方も多いんです。なので、それぞれが持つ新選組の世界観に合わせて返したりとか……。沿道の皆さんが喜んでくださるきっかけを探して、どんどん新選組に興味を持ってくれたらいいなと思っていました。

それから、今年は初めて和泉守兼定(土方さんの愛刀)のレプリカをお披露目する年でもあったんです。来年以降も受け継いでいく刀なので、みなさんにちゃんと見ていただけるよう心掛けました。……でも正直なところ、本番のことはほとんど覚えていないんです。

土方歳三没後150年に作られた、愛刀・和泉守兼定のレプリカ。会津松平家第14代当主である、松平保久さんより刀を授かる。(撮影:井上博司さん)

───パレードを見学していて、参加されている皆さんが自らお祭りを盛り上げようとしている様子が印象的でした。実際、裏側ではどんな雰囲気なんでしょうか?

そのとおりで、お祭りを盛り上げるために、自発的にみんなが動いているという印象です。初回から参加されているような方や、お祭りやパレードの勝手を知っている方が多いんです。なので、初めて組頭や隊士に挑戦する方に対しても「こうしたほうが良いよ」というアドバイスをくださるんですよ。みんなで盛り上げていこう、という気持ちが強くて、お祭りの1か月前くらいからSNSでいろんな情報が飛び交うんです。「熱中症にならないようにこれを持って行った方が良いよ」とか、みなさんが自発的に情報を集めて発信してくださって。

実は、全国的にいろいろある新選組のお祭りで新選組隊士に扮して隊士コンテストに出たり、一般参加できるのって日野だけなんです。それから、こんなに賑やかで盛り上がり、沿道で応援してくださる皆様とパレードに参加する隊士達が一体になっていると感じるのも日野くらい。新選組の原点である日野が、魅力溢れるお祭りを毎年開催してくださるのは本当に感謝しかありません。

組頭の集合写真。仲が良く、祭りが終わった後も定期的に交流があるという。
 

───三宅さんにとって、日野はどんな場所なんでしょうか。

私にとって、第二のふるさとと言える場所です。ただいまと言ったら、おかえり、と返してくれるような。「新選組が好きだ」と堂々と言えて、受け入れてもらえる場所です。それは日野で新選組が愛されているからだと思っています。帰ってきたら元気をもらえて、また頑張れる場所。もっともっと皆さんに日野の良さを知ってもらえたら嬉しいですね。

私も日野に来た時は、SNSに情報を載せています。「日野でこんな美味しいもの見つけたよ」とか、「こういうイベントやってるよ」とか。日野が好きなので、少しでもお返ししたいんです。

日野に来たら、いつも想像するんです。どういう風に、土方さんがここを歩いたんだろうとか、どんな青春を過ごしていたんだろうとか……。皆さんにもどっぷりと、新選組に浸ってほしいです。
 

───来年の「ミスター土方」に伝えたいことはありますか?

自分のしたいことを貫いてほしいです。私も、自分がしたいことを貫いた結果「ミスター土方」になれたので。それから、笑顔と感謝を忘れないでほしい。隊士になりたいと思ったら、自分には無理と思わず一歩踏み出してほしいですね。私も参加したことで交友関係が広がって、どんどん新選組が好きな気持ちが大きくなっているんです。自分が新選組を好きだ、という気持ちを貫いて、参加してほしいです。

三宅さん自身が想いを貫き行動する、「言葉を成す」人でした。インタビューで印象的だったのは、常に周りの人や日野市への感謝の想いを口に出していたこと。もしかすると彼女が敬愛する土方さん、土方歳三も当時そういう人だったのかもしれません。
「ミスター土方」としての活動は、次のミスターが決まるまで続きます。直近だと、2019年9月22日(日)には、会津若松で行われる「会津まつり」の会津藩公行列に参加するのだとか。もちろん、愛刀・和泉守兼定(レプリカ)も一緒です。

インタビュー後に八坂神社にて。丁寧に言葉を選ぶ、柔和なイメージの女性。パレード時とは声も表情も印象が異なっているけれど、第二のふるさとに帰った「ミスター土方」がそこにはいた。

 

取材協力
日野市観光協会
http://makoto.shinsenhino.com/

 


【おすすめ記事】

令和初ミスター土方の縁合わせ旅〜始まりは日野、新選組のふるさとへ

令和初ミスター土方の縁合わせ旅〜青春の壬生狼を追って京へ

東海道五十三次(2)かつては花街、品川宿に江戸の面影を探す