このシリーズでは、日本に昔から伝わる季節のお祝いと習わしの意味について、あらためて振り返ります。今回は、新年「お正月」から始まる春の行事。2月の「節分」、3月「ひな祭り」まで。

お正月~年神さまをお迎えして1年の始まりを祝う

1月1日の元旦に始まって「松の内」、つまり門松を取り去るまでがお正月。その期間は、短いところで三が日、関東地方では7日など、地域によって違います。

単に暦が新年になるだけではなく「年神さま」をお迎えするのが、日本の「お正月」行事。 日本では古くから元(はじめ)に大きな活力が宿っていると考えられてきましたが、お正月には、その年の活力を与えてくださる年神さまをお迎えして共に過ごす、という考え方があります。
お正月を象徴する多くのものは、年神さまのお迎えと関連しています。 例えば、門松正月飾りは年神さまがお越しになるための目印。鏡餅(かがみもち)は年神さまへのお供えであると同時に、期間中に神様の魂が宿るもの(依り代)でもあります。

家族が揃うお正月、年神さまの前でケンカは禁物。年の初めにケンカをすると、もめ事の多い一年になるのだそう

おうちに年神さまをお迎えしたら、次に行うことは「初詣」。好きな神社・有名な神社に行くだけでなく、まずは自分たちが暮らしている地元、いつも見守ってくださる氏神さまに忘れずに新年のご挨拶をしましょう。

2020年に発生した世界的な感染症拡大から回復、いつもどおりのお正月になるでしょうか。きっと帰省や旅行などご予定はさまざまに、それでも新しい年が、いつもよりゆっくりした時間の流れのなか各家で年神様と過ごすそれもまた正月本来の過ごし方ともいえるのではないでしょうか。
初詣については各神社・お寺で今年も混雑対策を取られ、年内から「予祝詣」「幸先詣」などのかたちで始まっています。1月いっぱい、さらに旧暦のお正月(いまの立春・節分)の頃まで初詣ができるところもあります。


1月7日は「人日(じんじつ)の節句」といって、その日の朝「春の七草」が入ったおかゆを食べると、1年を無病息災で過ごせるといわれています。
春の七草とは「せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ」。今ではめったに見ない珍しいものもありますが、どれも昔は普通に野山に生えていた植物で、その若菜を摘んでいただくことは春を待つ行事のひとつでした。

寒さが厳しい時期にやってくるお正月のことを冬ではなく「新春」というのも、春を待ち望んだ昔からの日本人の意識の表れといえるでしょう。

遠石八幡宮(山口県周南市)例年の初詣風景

節分~「鬼は~外!」の豆まきで厄や邪気を祓い春を迎える

日本には春・夏・秋・冬の四季があります。それぞれの季節の気配が訪れる日とされるのが立春・立夏・立秋・立冬。「節分」は季節を分けることを意味し、つまり本来的には春夏秋冬それぞれの始まりの前に節分がありました。現在は、立春の前日に節分の行事が残っています。

旧暦が使われていた昔、立春はお正月の始まりとほぼ重なっていました。その名残りから、その前日にあたる2月の節分は、ちょうど大晦日と同様に、1年に溜まった目に見えない穢れや厄、邪気を祓う「豆まき」をします。
古来、豆には悪いものを祓う力があると考えられてきました。家中の窓や扉を開けて元気よく「鬼は~外、福は~内!」と豆をまくのは、子どもの遊びのようにも見えますが、じつは新しい1年をさっぱり気持ちよく迎えるためのお祓いなのです。

現在の新暦ではお正月の後、2月に節分が来ますが、本来はこの時期までが健やかな1年を過ごすための下地作りの期間と考えるといいでしょう。
 

節分の豆を撒くだけではなく食べるのは、体の中からも厄や邪気を追い出すため

常陸国出雲大社(茨城県笠間市)例年の節分祭

ひなまつり~人形の始まりは、人の厄災を代わりしてもらう「ひとがた」

3月3日ひなまつりは、正しくは「上巳の節句」別名「桃の節句」ともいわれています。「節句」そのものは季節の節目のお祝いを意味し、このほかに5月5日の「端午の節句」、7月7日の「七夕の節句」、9月9日「長陽の節句」があります。

「お祝い」というと楽しく晴れやかな行事と思うかもしれませんが、その背景には、本来つつがなく健やかであることを祈る気持ちがありました。
そのため、いまでも伝わる季節のお祝いの行事には、健やかであることを阻む穢れや災いを祓う行いがもれなく含まれています。
ひな人形の起源とは紙で作った人形(ひとがた)のこと。その次に「流しびな」が作られるようになります。どちらも、私たちの心身に溜まった目に見えない穢れを肩代わりしてもらうためのもので、これを川海に流しました。この行事は、いまでも数多くの神社で受け継がれています。

今のような進んだ医療のなかった時代、季節の節目ごとに行事を設けることによって、人々はつつがない日々を願い、無事や健康を感謝してきたのです。

「ひな人形は早く片付けないと婚期が遅れる」は俗説で、人形を川に流していた時代の名残りという説もある

東京大神宮(東京都千代田区)の「雛まつりの祓」人形
 


原文/平井かおる(日本の神道文化研究会)

イラスト/今井未知 www.michiimai.com

参考文献/『暮らしのしきたりと日本の神様』(日本の神道文化研究会 三橋健+平井かおる/双葉社)


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