あけましておめでとうございます。ライターの、かがたにのりこです。

お正月はおせちやお雑煮に代表されるように、「決まって食べるもの」が特に多い時期。年の初めに健康や長寿を願って食べる縁起物が欠かせないのは和菓子も同じで、迎春菓子として干支や松竹梅などを模した練り切りなどの上生菓子をはじめ、平安時代の「歯固めの儀式」にルーツを持つ京都の花びら餅などがポピュラーです。

私が生まれた石川県の金沢では、福梅と呼ばれる梅の花の形をしたピンクと白の最中が正月菓子の定番なのですが、もうひとつ、子供の頃から楽しみだったのが「辻占(つじうら)」です。金沢以外でも北陸や九州、関西でも見た目や素材の異なる辻占があるようです。

金沢市内では老舗の和菓子屋さんだけでなく、百貨店やスーパーなどでも気軽に買うことができます。お値段も12個入りで500円程度と庶民的。

ちなみにこちらは、1918年創業の兼六園本舗 高砂屋さんの辻占。

元々の辻占は、夕刻に街の四つ角(辻)に立って、行き交う人の話す内容を基に占うもので、万葉集などにも登場する日本の占いの一種。

食べる方の辻占はというと、この小さくてきれいな色のお菓子の中にさらに小さなおみくじが入っています。

金沢では大きく分けると薄手の最中種(もなかだね)製のものと、寒梅粉(かんばいこ)製のものがありますが、我が家ではこちらの寒梅粉で出来たタイプに親しみがあります。

寒梅粉とは、もち米を蒸して餅生地を作り、ごく薄く延ばして焼き上げたものを製粉したもの。落雁などに使われます。梅の咲く寒い季節に新米で作られたものが上物とされることを、その名に留めているのも素敵。

乾燥はしているものの、干菓子というには一風変わった「半なま感」もあり。

硬いようなやわらかいような「もにゃり」とした抵抗を指先に感じつつ開いていくと、中からうすーい紙が出てきます。

兼六園本舗 高砂屋さんに辻占の作り方を伺うと、忙しさが比較的穏やかな夏の間におみくじを丸めておき、年の瀬になると寒梅粉と砂糖などを練って色をつけ、棒状にして乾燥させた生地を程よくやわらかさの残る状態でスライスし、おみくじを手作業で包んでいくのだと教えてくれました。

絶対にこう!というお作法があるわけではないのですが、みっつ選んで食べて、出てきたおみくじの言葉を繋げて、自分なりに解釈して楽しむのが古くからの習わし。

「あきらめ ない」「ほれては ならぬ」「辛抱する 木に 金がなる」。

うぅっ、これは…あきらめずに辛抱した先には成功報酬が待っているが、これ以上「推し」が増えると財政は火の車になるぞ…ってことかしら…。

このみっつのおみくじ、皆さんならどう繋げて解釈されますか?

神社のおみくじのように項目別になっているわけではないので、同じ言葉でも恋愛で受け取るのか、仕事や金運で受け取るのかはその人次第。出てきた言葉を今年のスローガンにするのも面白いかもしれません。

あ、次の言葉は締め切りに追われるライターとしては、言ってみたいスローガンですね。

新年の運試しのお菓子といえば、海外でもフェーヴと呼ばれる小さな陶器のおもちゃが入った焼き菓子ガレット・デ・ロワがありますが、日本では異物混入のクレームに繋がることなどもあり、フェーヴが別添えで売られることも多いと聞きます。これから認知度が上がれば対応も変わってくるかもしれませんが、自分のお菓子の中に当たりをハッケンする喜びは別添えでは味わえないでしょう。それでも各店、焼き菓子の味で個性を出すことは可能です。

紙片を入れるための乾いた空洞が必要な辻占は、何か新しい素材を加えることが難しく、味の発展より見た目の美しさと中からおみくじが出てくる楽しさ、そこのみに個性を集中させた和菓子です。どうかこの美しい和菓子がこのままの姿で続く、やさしい世界でありますように。


兼六園本舗 高砂屋
石川県金沢市石引2-7-4
TEL 076-221-0151 https://isibikisyouten.com/shop/27/
金沢駅「百番街あんと」でも購入可能

※辻占の販売は毎年年末から1月中旬頃まで(なくなり次第終了)。値段は2020年当時。
 


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