ハッケン!ジャパンに「写真家が見る日本の美しい城」コラムを寄稿する齋藤ジンさんは、福島県会津若松市に生まれ育ち、上京して職業カメラマンの道へ。雑誌や広告、ポスターや動画など、さまざまな写真を撮ってきた写真家。そうした仕事とは別に自身の作品として、生まれ故郷の会津と並んで撮り続けているのが一連の城郭の写真だ。
10年余りにわたって撮ってきた作品の一部を、2024年3月21日から東京・新宿で開催された写真展(グループ展)で公開。城郭写真に込めた想いについてお話を伺った。
桜満開の鶴ヶ城
撮り始めたきっかけは、故郷・会津の鶴ヶ城
齋藤さんが城郭を撮り始めたのは、2011年の東日本大震災後のこと。
「あらためて故郷・会津への思いを自覚し自分の作品として会津を撮り始め、そのなかには当然のように鶴ヶ城がありました。撮影していくなかで、それまで漠然と見ていた鶴ヶ城の現在と過去が、自分のなかで一気につながった気がしたのです」
「鶴ヶ城は、江戸時代と同じ場所、形に復元されており、つまり視覚的にも現世と江戸時代の原風景を重ねて見ることができます。特に夕暮れどきになると、まるであの世との狭間にいるかのような不思議な感覚に襲われ、城の歴史背景を知るほどにいろいろな表情が見えてくるのです」
こうして自身の原点でもある会津の鶴ヶ城に始まり、そこから全国の城郭に興味を持ち、日本全国のお城へと通い始めた齋藤さん。
「調べてみると城郭といっても多種多様。城跡、城壁、石垣だけも含めると数千もあるのです。お城と認識される建造物だけでも全国に約91カ所あり、そのうち撮影できた城郭は現時点で60カ所以上あります。生きているうちに全部撮っておきたいと思うのは写真家の性かもしれません」
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過去と現在をつなぐ、作品としての城郭写真
城郭写真を撮ることを通じて感じた、過去と現在がつながる感覚。齋藤さんは、写真を見る側にもその感覚を届けたいと思いながら、作品と向き合っているという。
「城郭写真を作品として仕上げる際に意識することは一点だけ。『いかに当時の原風景に近づけるか』ということです」
当時を彷彿とさせる石垣の配置や、当時の眺望を想像できる空の広がり、さらに城壁の質感、全体の色調やトーンなどにこだわった齋藤さんの城郭写真は、時代を超えてあり続けてきた城の歴史と悠久の時が伝わってくる。
「さらにベストな1枚に仕上げるために、山城か平城か海城かなど、その城郭の背景に沿った要素を入れ込むようにしています。1枚の写真に、いろいろな要素を凝縮することによって、ただのお城の写真ではない見応えのある城郭写真が、作品として完成されると考えています」
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職業写真家にとって作品撮りがもつ意味とは
写真家のなかには、商業写真といってクライアントから依頼をされて撮影する一方で、報酬と関係なく、自分の興味や感性、テーマに沿って作品としての写真を撮っている人は多い。齋藤さんにとっての作品テーマの重要な一つが城郭写真だ。
「商業写真と作品としての写真は、同じ写真に見えて違うものです。プロのカメラマンは、ある程度の決まり事や与えられた状況の中で最高の写真を仕上げるのが仕事です。自分の中の“いい写真”とクライアントから求められている“いい写真”のバランスを考えて撮ります」
「一方、作品撮りでは純粋に被写体に向き合うことができます。自分の欲望のままに、撮りたいものを撮りたいように撮っているので、いわば自分を曝(さら)け出しているようなもの。写真を見た人に『この写真家は、なぜこの写真を撮ったのだろう』と考えてもらえたら、撮った意味があります」
個人の内面を写真という形あるものにして他人に見せる、作品としての写真。齋藤さんの城郭作品からは、何を感じとることができるだろう。
「全国に現存する城郭は、戦国から江戸、明治、昭和と時代を刻み込み、時代の橋渡しをしてくれている。そんな感無量の思いを抱き、撮り続けています。私が城郭から読み取ってきたこと、過去・現在だけではなく未来へ残していきたい思いも、写真に宿しているつもりです」
日本の美しい城を訪ね歩く齋藤さんの旅は、ライフワークとしてこれからも続いていくだろう。
作品は、2024年3月21日から開催の写真展(グループ展)のほか、齋藤ジンさん公式サイトでも多数公開されている。お城好きと、自分でも写真を撮るのが好きな人は、ぜひ見てほしい。
https://www.saitojin.com/gallery3
【Information】
写真展「Photo Unit J12 Vol.5」
2024/03/21 ~ 2024/03/27(日曜休館) ※終了
会場:アイデムフォトギャラリーシリウス
住所:東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2F
時間:10時〜18時(最終日は15時まで)
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