お墓の前で宴会をする、沖縄の「清明祭」

沖縄は、先祖崇拝が深く浸透した地域で、「清明祭(シーミー)」という年に1度のお墓参りをとても大切にしています。旧暦の2~3月(新暦では3~4月頃)に行われる行事で、これは琉球王朝時代に中国から伝わった風習です。

シーミーは本土で一般的にイメージするお墓参りとはかなり異なっていて、親戚一同がお墓に集まって掃除をし、料理やお酒を持ち寄って半日ほど宴会をするのが特徴。ご先祖様に見守られながら親戚・家族がコミュニケーションをとる、沖縄の人にとって非常に大切な行事なのです。

沖縄の伝統的なお墓は本土とは異なるかたちをしており、大きく分けて「亀甲墓」と「破風墓」の2種類があります。いずれもお墓前のスペースが広くとられ、そこで宴会が行われます。

屋根部分が亀の甲羅のような形をしている「亀甲墓」。墓前に庭のようなスペースがあり、ビニールシート等を敷いて宴会を楽しむ。20人以上が座れるほど広いお墓も

毎年大々的に行われてきた沖縄のシーミーですが、2020年以降、従来どおりに行うことは難しい状況です。
シーミーは、家族・親戚が集まって近距離で会話や食事をする行事。新型コロナウイルスの感染拡大をうけて、2020年に沖縄県知事は「できるだけお互いの距離を開けてウートートー(お祈り)をするように」と提言しました。
また、シーミーに欠かせないのが重箱料理。各自が好きな料理を取って食べるビュッフェスタイルになり、万一の場合は集団感染に繋がる危険があります。そのため、“自分の箸で料理を皿に取り分けた状態で”食べるようにも提言されています。
2020年以降のシーミーは、伝統を大切にしながらも、現実に即した変化を受け入れる柔軟性が求められることになりました。
(編集部注:2022年4月現在、沖縄および全国の感染拡大はまだ完全に収まっておらず、シーミーは2020年同様の方針で行われています)

もとは琉球王朝時代のお墓とされていた「破風墓」。家のようなかたちをしている。破風墓には左右の石垣をまたぐ鉄骨があり、シートをかけることで簡易テントになる

沖縄の「お墓」が抱える問題について

実は、沖縄の「お墓」そのものも変化の時を迎えていました。現在、沖縄には2千を超える無縁墓があるといわれ、そうした管理者のいないお墓は荒れ、中にご先祖様を残したまま放置されてしまうことも。今後そのようなお墓が増えていくことが懸念されているのだそうです。

墓じまいや改葬を進めている株式会社琉球メモリアルパークの馬場雅夫さんに取材。沖縄特有のお墓事情について教えていただきました。

管理者がいなくなり、無縁になってしまったお墓。お骨が入っているため、そしてまとまった費用が必要になるため、なかなか手を入れることができない

もともと沖縄ではお墓を受け継ぐのは長男という風習があり、次男以降は自分でお墓を建てなくてはいけません。家よりもお墓を持つことが大事だと考えて、借金をしてでもお墓を建てるという文化がありました。そのために長い間、沖縄のお墓は増え続けるばかりだったのです。

馬場さんによると、かつての沖縄のお墓は宗教観と土着性から来る、一種の「永続性」で成り立っていました。
まず、先祖をうやまう宗教観が、お墓の管理には必須です。
そして、昔は一生涯沖縄から出ないという人も多くいました。しかし現在は沖縄から出ていく人も多く、昔のような管理はできません。
「あと30年もすれば、沖縄のお墓の多くが廃墟になってしまうかもしれない」と馬場さんは言います。

時代にあわせて変わるお墓の管理

そんなわけで、現在は個人でお墓を建てることは禁止され、今あるお墓も管理者のいる公営や民営の霊園への改葬が進められているのだそうです。
長い間受け継がれてきたお墓のあり方を、自分の代で変える決断は、簡単なものではありません。しかし継承者がいなくなれば、近い将来に無縁墓となってしまうことは確か。
少しずつ理解が広まってきたとはいえ、なかには反対される人も。そこで、一族を集めて改葬の必要性を説明するよう頼まれることも多々あるのだとか。

墓じまいした個人墓。中にあったお骨は改葬されている

霊園に造られるお墓のかたちは「破風墓」など伝統的なものもあれば、庭部分を持たない小規模なものも。その場合シーミーは墓前でお線香を焚いたあと、離れたスペースで宴会を行う

位牌供養塔。沖縄では位牌(トートーメー)がご先祖そのものとして神格化され、代々継承される。位牌の管理や継承が難しくなっていることも多い

沖縄の伝統的なお墓と、その管理の仕方は、時代にあわせて少しずつ変わってきているということが分かりました。この変化は、沖縄固有の文化が消えてしまうということではなく、むしろ次の世代に残していくために必要と言えることなのでしょう。

中城メモリアルパーク(沖縄県中城村)から望む中城湾。季節によってはコバルトブルーに輝く美しい海が見られる。この景色を気に入って通う人も多いのだそう

消費するだけでなく地域を深く知る旅へ

本土にはない特有の信仰や行事が、今も残る沖縄。今回ご紹介したようなお墓は、沖縄のいたるところで見ることができます。
観光の中心地・国際通り周辺にも建てられているので、旅の途中に見たことがある方も多いのではないでしょうか。琉球王朝の王族が眠る「玉陵(たまうどぅん)」は観光名所にもなっています。
沖縄のお墓は今、長い歴史の転換点にあります。もし沖縄旅でお墓を見かけることがあったら、その裏側にある事情にも思いをめぐらせてみてください。沖縄に息づく文化が感じられると思います。
地域を深く知ることで、うわべだけ楽しむ観光旅行よりも、ずっと思い出深いものにできるかもしれません。

「移動」や「人との接触」が感染理由になるウイルスの出現によって、以前のように気軽には旅に出られなくなりました。
こうなってみて、違う地域の生活や文化、習慣を体験できる旅というものを、あらためて恋しく感じています。
次に旅に出られるときは、今回ご紹介したような“地域の事情”にも思いを馳せてみるのもまた良いのではないでしょうか。

 


取材協力 琉球メモリアルパーク https://www.ryuukyuu.co.jp/
※この記事は2019年12月の取材にもとづき原稿を制作、2020年4月に初出公開されています


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