両親に連れられての初宮参りと幼い日の七五三、成人式にお正月の初詣など、晴れ着姿で神社にお参りした経験のある人は多いと思う。
着物に身を包んで神社にお参りに行くのは、身も心もあらたまった晴れやかな気持ちになるものだ。
ところで日本で最も多くの「振袖姿の花嫁」が見られる神社はどこかご存知だろうか? それはおそらく、伊勢神宮。
御祭神は天照大御神(あまてらすおおみかみ)。皇室の皇祖神であり私たち日本人にとっての総氏神、心の故郷ともいうべき特別な神社だ。
では、伊勢神宮に花嫁が振袖姿で参拝することは、どのような意味をもつのだろう?
伊勢の地で100年以上の歴史をもつ婚礼美容の老舗「ボルボレッタ」代表の中澤順子さんにお話を伺った。
伊勢神宮への「結婚奉告参拝」とは
伊勢神宮で結婚式ができるの?と驚くかもしれないが、実際には全国から年間300組以上のカップルが「結婚奉告参拝」で伊勢神宮を訪れているという。
「結婚式ではなく、この世に命をいただき生かされてきたこと、ご神縁をいただき結婚できること、これまでの人生のすべての感謝と慶びを伝えるための結婚奉告参拝です」と中澤さん。
昔から「一生に一度は行きたいお伊勢様」といわれる憧れの地。たしかに、新しい人生を始める結婚というタイミング以上の好機は、なかなかないだろう。
中澤さんは、この伊勢神宮 結婚奉告参拝を組み込んだ「お伊勢さん和婚」を考案、全国に広めてきた。
伊勢神宮での花嫁の第一礼装は大振袖か引き振袖
伊勢神宮での結婚奉告参拝は、別の場所で結婚式を挙げた方、もしくは式は挙げていないけれど入籍済みという方も可能。
そして、その際の服装について「衣は心を表すと申します。結婚の感謝と慶びをお伝えするのであれば、和の最高礼装で」と中澤さん。
花嫁衣裳というと、白無垢・色打掛が格式が高く、引き振袖はお色直し?ややカジュアル?と思う人もいるかもしれないが、それは大きな間違い。
振袖は未婚女性の第一礼装であり、結婚は花嫁にとって振袖を着られる最高にして最後のチャンスになる。
ここで、花嫁の振袖について少し説明しておこう。振袖には小振袖、中振袖、大振袖があるが、袖が長いほど格が高くなる。
花嫁衣裳には「本重ね」か「比翼仕立て」の大振袖もしくは引き振袖、小物も懐剣・筥迫(はこせこ)・抱帯・丸くけの帯締め・房付きの扇子などの花嫁専用の小物をあしらうのが正式。花婿は紋付羽織袴。
本来、花嫁の引き振袖は裾を引いて着るために着丈が長いのが特徴だが、伊勢神宮では裾を引かずに「対丈」(ついたけ)、身丈と同じ長さに着付けるのがルール。
なかには成人式の中振袖に花嫁小物を合わせてお参りをする方もいるそうだが
「せっかく日本の最高神に人生最高の感謝をお伝えするのですから、礼を尽くし、衣を正した最高礼装で臨みたいもの。私たちはそのお手伝いをさせていただいています」(中澤さん)
ちなみに、花嫁衣裳というと一般に連想される白無垢や色打掛などの「羽織りもの」、花嫁かつらに綿帽子や角隠しといった「被りもの」は、伊勢神宮ではNG。皇族方がお参りされる服装から一歩引いた装いがドレスコードなのだそう。
花嫁振袖に年齢制限はない
ところで、花嫁だけの正礼装である大振袖や引き振袖は、年齢的に何歳頃まで着ることが許されるものだろう?
たとえば式を挙げずに10年、20年と経ったカップルが伊勢神宮に結婚奉告参拝に行く場合、振袖を着るのはおかしいだろうか?
「振袖に年齢制限などなく、先日も50代のお母様が引き振袖を着られました。ご夫婦にとっては真珠婚の記念ということでしたが、花嫁の正礼装である引き振袖を着られることに何も問題ありません」(中澤さん)
その方は、家族そろっての伊勢神宮への奉告参拝に、いままでに着たことのない花嫁の振袖で臨みたいという強い希望があったのだという。
「息子様2人はお父様のお仕事を継がれ、娘様も社会人となり、3カ月後には、ご長女が結婚されるとのこと。そんなご一家のお幸せに対して大神様に御礼を申し上げたいと、そのまっすぐなお気持ちが私は本当に嬉しくて、『天照大御神様も天上からにこやかに、よくがんばられましたね、おめでとうと微笑んでお迎えくださると思いますよ』とお伝えしました」
もちろん、「年齢的にもう振袖はちょっと…」思うのであれば、既婚者の第一礼装である色留袖や黒留袖でもかまわない。
なにより大切なことは、お参りするふたりと家族が「神様に愛され、ご神徳をいただいて、幸せに生ききって欲しい」と中澤さんは言う。
こちらはあくまでも伊勢神宮での「結婚奉告参拝」についての事例。
こだわりの和装で行う神社仏閣での結婚式や、人生の節目に着物姿でお参りに行くことは、それはそれで良い思い出になるはずだ。
(お話を伺った人) 中澤順子(なかざわ・よりこ)
株式会社ボルボレッタ社長。伊勢神宮の正宮参拝と神楽殿での祝詞と神楽を奉納する結婚奉告参拝を組み込んだ「お伊勢さん和婚」を通して「日本の心を感じ、幸せに生きていくために必要な智慧を会得して欲しい」との願いから、人生の新たな門出を伊勢で叶えたいカップルと家族のために日々奔走している。
お伊勢さん和婚 https://www.isewakon.com/
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