ごきげんよう。
ライターの、かがたにのりこです。
秋の深まりを感じる頃合いとなりました。
山々がゆっくりと色づき始め、真っ青な空にホワホワとひつじ雲が浮かび、さらさらと小川が流れる…そんな景色が市街地にいながら堪能できる古都・奈良にやってまいりました。
そこで出合ったのは、奈良御菓子製造所ocasiの新しいおいしさ。
穏やかさと力強さを感じさせる山のごとき和菓子と、軽やかな雲のような洋菓子、そして清らかで瑞々しい水菓子のトリデンテ。
今回は、奈良御菓子製造所 ocasiの「ocasiプレート」をご紹介いたします。
いいお店を奈良の街に増やすことで、奈良を元気にするまちづくりに取り組む中川政七商店。「幸せの分母を増やす」をモットーに、レストラン展開や食のプロデュースを重ねてきたsio・鳥羽周作シェフ。奈良御菓子製造所ocasiは両者による、“おいしい”お店を増やし、食を通じて奈良を元気にするプロジェクトの一つとして2022年10月22日に誕生したばかりのお店です。
突然ですが、皆さんはこちらのお菓子をなんと呼びますか?
「どら焼き」、ですよね。
実は奈良や京都では、この菓子が「三笠(みかさ)」の名で親しまれている地域が多くあります。その名の由来は諸説ありますが、なだらかな膨らみのある形が奈良の三笠山の稜線に似ているからといわれています。
奈良の三笠山といえば、万葉集や百人一首にも詠まれた山。
中でも阿倍仲麻呂が詠んだ、
天の原 ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に いでし月かも
は特に有名ですよね。
つい、こんなふうに盛り付けたくなります。
イートインでの提供は、この三笠山のようなどら焼きの傍らに、まあるいお月さまが3つ。
添えられたフルーツジャム3種のうち、2種は季節によって入れ替わるのですが、通年添えられるのが奈良時代から親しまれる最古の柑橘、大和橘(やまとたちばな)のジャムです。
奈良御菓子製造所 ocasiの中庭にも大和橘の木が植えられていました。
現在では準絶滅危惧種となっている大和橘の姿が、その爽やかな味わいとともに多くの方に知ってもらえる演出も素敵。
非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)。
「時を定めず、いつでも香りを放つ実」という意味の、神話めいた別名をもつこの小さな実は、『続日本紀』によると「橘ハ菓子ノ長上、人ノ好ム所ナリ」という聖武天皇の言葉が残っており、日本の菓子の原点だといわれています。
古来、菓子とは橘などの果物のこと。
他の菓子が生まれる中で「水菓子」と呼ばれるようになり、そして洋の食文化が入ってきたことから「和菓子」「洋菓子」との呼び分けが生まれました。
「ocasiプレート」で洋菓子のポジションを担うのはチーズケーキなのですが、チーズケーキが伝わるよりも遥か昔、奈良では飛鳥時代に最古の乳製品「蘇」が作られていたことを踏まえれば、これ以上の適役はない! と思わず膝を打ったのでした。
どら焼きはハチミツの風味が感じられるふっくら生地。ふわふわすぎない、トラディショナル感を残したタイプで、さらりとした甘さの粒あんをしっかと抱きとめています。
私は「あんこ」×「果実の酸味」の組み合わせが大好きなのですが、大和橘のジャムとのペアリングは、酸味や甘味のほかに特有の微かなほろ苦さが加わることで、味に奥深さを与えていました。
また、ここにチーズケーキも塗って、ジャム、どら焼き、チーズケーキの水・和・洋の全部盛りにしてみたところ、すこぶる相性がよかったので、お店に行かれた際はぜひ試してほしいです。
チーズケーキはそのやわらかさゆえ、カット売りでのテイクアウトはできないものの、どら焼きは、一つからテイクアウト可能(提供時はペアリングジャムが1種類添えられます)なので、店舗のすぐ近くに広がる猿沢池のほとりを散策しつつ、いただくのも良さそう。
イートインではスパッとカットされているどら焼きですが、手割りをするとこんな感じ。ピッカピカの小豆が断面から顔を覗かせてくれますよ。
ギフトやお取り寄せの際のボックスは大和橘の葉をモチーフにしたロゴが印象的です。
素敵な菓子箱がなかなか捨てられない私。いつもは、やれやれといった顔で見ている夫も、ひと目見るなり「その箱、いいね」ですって。
橘はとても縁起のいいモチーフなので、これからの時期、新年のご挨拶にも喜ばれそうです。葉に覆われた蓋を開けると実(菓子)が現れるなんてワクワクしませんか?
ocasiプレート935円(税込)
奈良御菓子製造所 ocasi
https://ocasi.jp/
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