奈良・ならまちの新名所「鹿猿狐ビルヂング」が2021年4月14日(水)にグランドオープン。築130年の町家と3階建ての新舎が中庭を挟んで行き来できる複合商業施設となっており、奈良の歴史と今を感じられる空間となっている。

ハッケン!ジャパンの連載コラム「和菓子で暮らせば」のライターかがたにのりこが、オープンに先立ち行われた内覧会の写真とともに、見所をご紹介。
 

奈良の暮らしを感じながら

到着してまず驚いたのは、町の暮らしとの距離が近いということ。どんなルートで行くかにもよるが、ならまちのアーケード商店街から路地を入って行く場合、本当にこの先にあるのだろうかと不安になる程、路地が細く、そして民家の近さにドキリとする。
旧 遊中川 本店も、元は商いの場所兼中川家の住居だったという。商業地でありながら閑静な住宅街でもある、不思議な町の魅力を感じるだろう。

鹿よけの格子が影を落とす店内は、商品以外にも見所がたくさん。
築130年の町家の天井には麻布を検品するための長い竿が掛かり、壁には1925年のパリ万博に出展した際の奈良晒(さらし)のハンカチーフが飾られるなど、麻織物の問屋という中川政七商店のルーツを存分に感じることができる。

かつて使われていた電話室をフィッティングルームとして使うことができるのも楽しい。

さらに深く中川政七商店の歴史を体感できるのが、今回初公開となる2つの蔵のギャラリースペース。

「時蔵」(ときぐら)と呼ばれるギャラリーには、これまでの毎年の成果物を資料として保管するための桐の引き出しがずらりと並ぶ。その量、なんと421年分…!

「布蔵」(ぬのぐら)はかつて布を保管していた蔵で、現在は麻のものづくりの道具や織り機が展示され、その工程の一部を見学および体験できるスペースとなっている(要予約制)。

鹿と猿と狐が奈良で出会う

鹿猿狐ビルヂングには、鹿がトレードマークの中川政七商店に加えて、奈良初出店となる「猿田彦珈琲」、ミシュラン一つ星の人気レストラン「sio」が手がけるすきやき店の「㐂つね(きつね)」が出店。

「猿田彦珈琲」では限定「ならまちブレンド」がイチオシとのこと。キッズサイズのアイスクリームやジュースなどもあり、子どもと一緒のお出かけの休憩にもぴったり。

「㐂つね」では、すきやきコースの大和牛をはじめ、葛そうめんなど、奈良県産の食材を贅沢に使用。
東京ではおなじみの人気店sioが、奈良の食文化にどのようにインスパイアされたのか、ぜひ実際に味わってみて。

日本の工芸を元気にする

新舎の1階一部と2階が、中川政七商店の旗艦店となる。特に2階は日本の工芸を活かしたオリジナル商品3000点で構成されており、とにかく時間に余裕を持って訪れたい。紙モノ、器、調味料、玩具など、日常使いのものからギフトまで大充実の品揃え。

中川政七商店のアイコン的存在の「かや織ふきん」も圧巻のバリエーションで、端から端まで全て欲しくなる可愛さ。

ご当地限定や季節を感じる柄をついチェックしてしまう愛好者も多いはず。写真は、夏みかんとその花をモチーフにしたもの。

奈良の伝統工芸「奈良一刀彫」の作家・髙橋勇二氏の作品「花鹿」は、正倉院の宝物に描かれている花の角が生えた霊獣がモチーフ。
美術館の展示のようにクリアケースに入った工芸品も、実は購入が可能。もちろんお土産感覚で気軽に買える価格ではないが、全くもって手が出ないほどの価格でもないのが悩ましい。
ケースの前を立ち去りがたい品をハッケンできる楽しさも、ここならでは。

おあつらえを待ちながら

新舎から再び町家の旧 遊中川 本店に戻ってきたのは、「おあつらえ処」が気になっていたから。

麻生地を用いて、のれんや座布団、タペストリーがオーダーできる他、有料の刺繍サービスがあるということで、さっそく購入したハンカチに刺繍を入れてもらうことに。

イニシャルか鹿猿狐柄か花鹿柄からワンポイント、好きな刺繍を選んでオーダー。

内覧の日は他にオーダーしている人もいなかったが、普段は最初にオーダーして、それからゆっくり店内を巡るのが良さそうだ。

15分ほどで出来上がるということで、中庭に面した喫茶スペース「茶論」で濃茶ラテを飲みながら待つことにする。
ちなみに濃茶ラテは通常テイクアウトのみとのこと。

中庭も見事ながら、和室に置かれた鹿の襖絵の素晴らしいこと…!
江戸時代後期の画家・内藤其淵(ないとうきえん)は鹿を描かせたら右に出るものなしと言われた名手という。

こちらの喫茶スペースでは「季節の主菓子とお茶のセット」や「自点てセット」なども用意されているそう。
主菓子は奈良を代表する名店「樫舎(かしや)」にオーダーしているとのことなので、こちらもまた改めて伺わねばと楽しみは増すばかり。

「茶論」スタッフの皆さんが着ていたこちらのシャツ。着物の胸元と同じ感覚で懐紙が入れられる仕立てが素敵。ユニフォームかと思いきや、鹿猿狐ビルヂング内や「茶論」のオンラインショップで購入可能だそう。またまた欲しいものリストの項目が増えてしまった。

そうこうしているうちに、ハンカチの刺繍が完成!

念願の花鹿を手にし、気分は上々。この満足感はぜひ体験してほしい。

古きを学び進化する場所

歴史を紡いできた創業の地で、次の100年に向けて新たな一歩を踏み出した中川政七商店。
ショッピングやグルメ、そして奈良の文化と日本の工芸の素晴らしさを体感できるスポットとして、新たな奈良観光の拠点となる鹿猿狐ビルヂングに足を運んでみてはいかがだろう。

 

鹿猿狐ビルヂング  
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/pages/shikasarukitsune.aspx

 


 

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