突然、失礼いたします。年間200本以上を劇場で観る、映画好きライター椿屋です。

10月15日、司馬遼太郎著『燃えよ剣』を原作とする映画が封切られます。メガホンをとったのは、『日本のいちばん長い日』(2015)、『関ヶ原』(2017)で知られる、原田眞人監督。
先日、監督へのインタビューにて貴重なお話をお伺いできたため、こうして友人である葵ちゃん(葵太夫)コラムまで出張ってまいりました。しばし、お付き合いくださいませ。

ハッケン!ジャパンの読者にも新選組ファンは多くいらっしゃると思いますが、ゲームやアニメを入口として、新選組という剣客集団に興味をもつ女性も近年増えています。それらの作品のベースとなったともいえるのが、作家の司馬遼太郎氏が描いた新選組。
「燃えよ剣」の
原田監督自身、『新選組血風録』から司馬作品にのめり込んだという幕末ファン。大好きな世界を映像化するため、最高のキャスティングによる歴史大作を生み出しました。「芝居はナチュラル、剣技はリアル」を追求し、まるでタイムスリップして歴史を目撃しているかのような世界観をつくり上げたのです。

まず注目すべきは、緊張感ただよう池田屋事件シーン。
滋賀県彦根市に宮大工が建てたオープンセットは、池田屋だけに留まらず、周辺の通りまでも忠実に再現され、作品に説得力をもたらしています。
その他、原田監督が「緊張して撮った」と言う東福寺の三門や、ロケハン時に「こんな場所が残っているのか!」と驚いたという東寺の金堂、大政奉還のシーンが撮影された東本願寺大寝殿など、世界遺産や国宝・重文といった豪華ロケーションの数々も見どころです。

そして、芹沢鴨暗殺の前夜に酒宴が開かれた嶋原・角屋(現在は「角屋もてなしの文化美術館」)での場面は見逃せません。なぜなら、芹沢鴨の隣に座しているのは、〝ほんまもん〟の嶋原の太夫だから。
そう、当コラムでお馴染みの葵太夫が、まさに芹沢鴨付きの「太夫」として出演しているのです。さて、現場ではいったいどんなやりとりが繰り広げられたのでしょうか?

今回は、映画『燃えよ剣』公開を記念して、葵太夫による撮影秘話をお届けいたします。

こんにちは、嶋原の葵どす。
うちが出演させてもろた『燃えよ剣』が、いよいよ公開となります。

撮影が行われたのは、2019年春。当初の公開予定は2020年5月どしたが、新型コロナウイルスの影響で1年半近くの延期を余儀なくされました。

最初に撮影のことを聞いたのは2018年の9月頃で、母の司太夫が所作や京ことば指導に入らせていただくことになりました。そして、一部の時代考証と、なんと出演までさせていただけることに!
太夫役は、近藤局長の贔屓(ひいき)の太夫「深雪太夫」と鴨さんの贔屓の太夫の二役あり、うちは鴨さん贔屓の「葵太夫」の役を務めました。

時代考証させてもおたのは、太夫、天神、芸妓の各装束、髪型や化粧についてどす。
昔は髪型で身分がわかるようになっていましたので、これは大事なことどす。
そして、太夫役が二人いる中で、どちらが先輩かわかるように、髪型と衣装で違いをつけました。時代にあわせて簪の本数も、現代とは違っています。

舞のシーンでは、季節と場面お伺いして、どの曲にするかも決め、流派が偏らないように舞の手を考え指導もさせていただきました。

撮影当日は、緊張もありましたけど、ほんまに現場の空気がとても良く、禿(かむろ)たちと一日楽しく過ごすことができました。
監督をはじめ、役者さん方、スタッフさんと、皆さんほんまにお優しく、禿にもよくお声がけくださって、あっという間に時間が過ぎていくくらいに楽しおした。

うちは、葵太夫としてデビューする前にタレント業もしていましたので、そのご縁でドラマ・映画の出演経験もいろいろとあります。
どこも現場はええところばかりやったんどすけど、原田監督の現場は、ほんまにええ現場なんやなあと今回改めて実感しました。
実は、原田監督の映画に出演させていただくの二度目なんどす。監督の前作『関ヶ原』でも女中として出演しています(笑) よかったら探してみてください。

撮影現場では、鴨さんはもちろん、土方さん、近藤さん、新見さんともお話しさせていただき、気づいたら、ちょうど普段のお座敷のような気分になっていました。
ほんまに昔はこんな風にお座敷してはったんやなぁ、と感じていたら、現場を見ていた母も同じことを感じていたそうどす。

うちと禿2人の出番としては2シーン、あと2人の禿は深雪太夫について別場面に登場します。3シーン、撮影日数は2日間。ほんまにええ経験をさせていただけて、末廣屋にとって一生語り継げる宝物になりました。

お話だけやなく宝物になったものが――。

映画の試写会に寄せていただいたのは12月やったので、「まねき」という簪をさしておりました。
本来、まねきには歌舞伎役者さんのお名前を直筆していただくんどすけど、その日は新調の“さら“をしていたので白紙。
そこで、監督にお名前を入れていただけないかお伺いしたところ、快く書いてくれはりました。

末廣屋の家宝どす!

撮影から2年以上が経過しましたけど、今でも撮影現場を思い出します。

言葉ではうまく表すことができひんくらいに、ええ作品どす。
幕末ファンや新選組ファンに留まらず、役者さんファンの方も、きっと気に入ってくれはる映画やないかなと思います。
国を良くするため、大事な人を守るために、戦い続けた人達の人生を感じとくれやす。

まだまだ自由にとはいかへん状況ではありますが、映画の公開後、新選組ブームが到来し、京都をはじめ幕末に関わる各地が盛り上がることを心から願います。
『燃えよ剣』聖地巡り、ぜひ皆さんしとくれやすね!もちろん、嶋原でもお待ちしております!

よろしゅうおたのもうします。


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