雛人形を飾り始める時期は、地域によっても異なるが、全国的には2月初旬の立春から後半の雨水(うすい)が多いようだ。そして、3月3日は桃の節句、雛まつり。
ホテル雅叙園東京内にある東京都指定有形文化財「百段階段」では、「千年雛めぐり〜平安から現代へ受け継ぐ想い〜百段雛まつり2024」を3月10日(日)まで開催中。多くのファンを持つ「百段雛まつり」だが、4年ぶりの開幕となり、2月に入ってから平日も来場者の列が途切れることのない盛況ぶりだ。

「前回、2020年の春は感染が急拡大して、雛まつり本番の3月3日を迎える前に早期閉会になってしまいました。非常に辛く、心残りでした」
そう話すのは、1回目からこの企画を担当する柚木啓さん(ホテル雅叙園東京 営業企画部長)。
「私たち以上にお客様が4年ぶりの開催を喜んでくださっていますね。久しぶり!待ってました、というお声もたくさんいただきました」

百段雛まつりは通常2年以上の準備が必要とされる大がかりな企画のため、中断から再開までには4年の歳月を要し、その間にも文化財「百段階段」では数々の企画展が行われてきた。単に戻ってきたというだけでなく、進化を遂げた今回展示の見どころについて、柚木さんにお話を伺った。

各部屋を旅するように、展示を「体験」

文化財「百段階段」での企画展は、階段に沿って配置された天井や床柱に日本画や美術品が飾られた7つの部屋に合わせて異なった世界観をつくり込む、凝った展示が魅力。
これまでの「百段雛まつり」は日本各地を巡回するように、主に昭和より前の時代の雛人形を中心に集められてきた。今回はエリアを限定せず、各時代・各地の歴史ある逸品から最新の創作人形まで、多種多様なお雛さまが集められている。

「全てが年代物のお雛さまではないのは新たな試みで、不安はありましたが、来場アンケートでも非常に良い評価をいただいています。昔のものだけでなく、ちょっと変わり種も、現代作家のお雛さまもいる。ただ並べるのではなく、より文化財「百段階段」の空間を生かした体験型の展示を目指しました。まさにこの4年間で学んだ点で、文化財と展示物を保全しつつ新しい見せ方を取り入れた結果、“楽しかった”と感じていただけていると思います」(柚木さん)

7つの部屋のうち最も絢爛豪華な「漁樵の間」では、福岡県飯塚市に春を告げる「いいづか雛(ひいな)のまつり」から約800体の座敷雛が集結した、圧巻の迫力の展示。大河ドラマで注目の紫式部が残した「源氏物語」の名シーンほか、平安絵巻の世界を再現されている。欄間に「五節句」の絵画が描かれた会場は、正面から見た展示の背景が桃の節句となり、今回展示との一体感は格別だ。
 

「静水の間」でも空間を大胆に使った、琵琶湖を舞台とする「清湖雛(せいこびな)物語」の展示が見られる。滋賀県東近江市で活動する人形師・東之湖(とうこ)さんによるスーパーモデル体型のお雛さまは、異世界の美しさ。人形の着物には珍しい近江上布(滋賀県特産品の麻織物)がすっきりとモダンな表情とともに、日本の自然がもたらす豊かさを伝える。

最上階にある「頂上の間」は、晴れの日の贈り物とされてきた手毬(てまり)がたくさん。「てまりを未来に連れていく」をテーマに掲げる東京都北千住の「はれてまり工房」と「日本てまりの会」の作品のほか、沖縄から秋田まで日本各地で生まれたカラフルなてまり作品が勢ぞろい。天井高の空間を生かしたインスタレーションはフォトスポットにもなっている。
 

いつかの思い出と重なり合う、不思議な感覚

「百段雛まつり」の特色の一つは、日本家屋という場所と目の前の雛かざりがマッチして、個人的な記憶が刺激されることかもしれない。通常の美術館のように価値の高い絵画をガラス越しに眺める距離感ではなく、どこか自分が体験してきた雛まつりの延長のように、記憶とリンクさせながら楽しむことができる。実際、和やかに思い出話に花を咲かせている女性グループの姿も目立つ。親子連れや同年代の仲間など、年代はさまざまだ。
本展のサブタイトル「平安から現代へ受け継ぐ想い」について、「こうやって節句の記憶を思い出していただけることも、継承につながるのでは」と柚木さんは話す。

「盛大にお祝いした子どもの頃かもしれないし、もっとささやかなことでもいい。給食でちらし寿司が出たけどイマイチだったね、なんて話とか(笑) 百段雛まつりがスタートしたのが2010年ですから、家族に連れられて5歳で1回目を見られた人は、今は20 歳前後。ここにいらしたことが、雛まつりの記憶の一部になっていたとしたら素敵ですね」

雛まつりに良い思い出がないとしたら?「今から始めたって良いんです」と柚木さんは笑う。
「四季を祝う節句に共通する“子の幸せを願う”という部分は受け継がれていますが、お雛さまは、既に子どものためだけのものではなくなっています。ミュージアムショップに並ぶお雛さまを “マイ雛”としてお買い求めの方も増えているんですよ。ご自宅の玄関脇などのスペースに、インテリア感覚で飾る。お雛さまを飾ったら、一緒に春の花を飾りたくなったり、そこに香りや照明が入っていったり、いろいろ遊ぶことができます。そんな風に日常の中で季節を愛でるのは、素敵なことですよね」
 

難しく考えず「大人のお人形遊び」を楽しんで

ところで、お雛さまと聞いて思い浮かぶのは、どんなビジュアルだろう? 最近の家庭用でよく見られるケース入りの対のお雛さましか見たことがない人が「百段雛まつり」の大小多彩な展示を体験したら、目からウロコが落ちるように印象が変わるはず。

会場に向かうエレベーターを降りた途端、きっと想像していたのとは違う姿のお雛さまが出迎えてくれる。純白の着物の雛人形が、宮崎県綾町の「雛山」(ひなやま)をイメージした緑の上に。日本初の総合結婚式場としても知られるホテル雅叙園東京だけに、まるで花嫁衣裳のような神々しいオーラで光り輝いていた。

さらに「十畝の間」へ進むと、これまでに「百段雛まつり」で飾られてきた年代物のお雛さまと、各地域で受け継がれた素朴な紙人形も並ぶ。手に取れそうな近さで、いろいろな角度から眺められる。お雛さまの左右の並びが違うことに気づいて不思議に思う人もいるかもしれない。

「どちらが正しいですかって良く聞かれますが、正解はないんです。古くはお雛さまを南向きに飾り、お日さまが登る方に女雛を置いた。西洋文化が入ってくると、今度は向かって左側が上座とされ、雛人形の並びも変化しています。なので、古いお雛さまは東側に女雛を、新しいお雛様は向かって右側に女雛、という風に並べてみました。歴史や背景を知ったうえで、アレンジは自由に楽しんでいただいて良いと思いますよ」(柚木さん)

約800体もの座敷雛で平安絵巻を再現した「漁樵の間」の展示は、そのスケール感に圧倒されるが、よく見ると人形が馬に乗ったり歩いていたり、まるで大人が本気の人形遊びをしているみたいだ。馬上の光源氏、車争いのシーンなど、源氏物語を知っている人ならわかる展示もある。そうした知識はなくても、人形たちが繰り広げる小さな物語や誰かに似た顔の表情を見ているだけで楽しい。

「草丘の間」に飾られた日本の四季と昔話をテーマにした創作人形や、「星光の間」に並ぶ、極小サイズのお雛さまと雛道具も、それをつくった人と集めた人、展示する人の愛情や遊び心が感じられて、なんだか心が温かくなってくる。

「ほら、そこの左端で女子会やってますよ!などとお客様にお伝えすると、本当だ~と盛り上がっていただけます。見る人の年代によっても感じ方はさまざまですが、大人の方に究極の“雛あそび”を楽しんでもらえたら」(柚木さん)

失われず受け継がれ、ここに在ることが奇跡

もうひとつ印象的だったのは、特に年代物のお雛さまについて「残っていること自体がミラクル」という柚木さんの言葉。かつて展示した貴重な雛人形が、その後災害などで壊れてしまったこともあるのだそう。失われたのはモノではなく、そこにまつわる思い出や時間だ。

「同じテーマで繰り返される企画展は、一度行けばもう満足ということも多いと思います。でも、百段雛まつりに、同じ景色は二度とない。そこが励みになったり、逆にプレッシャーにもなったりもしています(笑)。展示で見たことがきっかけで、お雛様をお借りした現地まで見に行った方もいらっしゃって、そんなお話を伺うと嬉しいですね」(柚木さん)

数もさることながら、一点ずつ異なる歴史と背景をもつ特別な人形たちが集まっている。その奇跡を自分の目で体感したいなら、ぜひ目黒のホテル雅叙園東京へ。
遠方で足を運べない人も、我が家のお雛さまを飾って、いつもとはちょっと違う春の楽しみ方を考えてみるのはいかがだろうか。
 

千年雛めぐり ~平安から現代へ受け継ぐ想い~ 百段雛まつり 2024
https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/hinamatsuri2024
2024年1月20日(土)~3月10日(日)  ※会期中無休


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