日本の春イベントといえば桃の節句、雛まつりだが、子どもがいる家庭ならともかく大人になってからはすっかりご無沙汰という人も多いのでは?
「雛まつり」ってどんな感じだったっけ?見直してみようと、目黒にあるホテル雅叙園東京で開催中の「百段雛まつり2020」に足を運んでみたら、そこには忘れかけていた日本のカワイイ世界が満開に広がっていた。

「百段雛まつり2020」は、今年で11回目。過去10回の開催で累計61万人を動員したという、毎年恒例の人気イベントだ。
会場となる百段階段(東京都指定有形文化財)へと続く、見事な螺鈿(らでん)細工のエレベーターの扉が開くと、春色の世界が目に飛び込んできた。
毎度のことながら、外の世界を一瞬で忘れさせてくれるウェルカムスペースの仕掛けに、まんまと心を掴まれる。

島根県出雲市「ねがい雛ミュージアム」から来た、あでやかなつるし雛と、赤ちゃんの愛らしい顔が特徴のおぼこ雛がお出迎え

冬の寒さを吹き飛ばし、ほんわりと春気分に包んでくれる、つるし雛とおぼこ雛のカワイイこと!
特に、「出雲・因幡(いなば)・萩ひな紀行」という今回のテーマから、出雲のうさぎをモチーフにしたつるし雛の雅びな色づかい、丸っこいシルエットや緻密なつまみの細工に思わず見とれてしまった。

続くホールで靴を脱ぎ、用意されていたスリッパに履き替える。

1935(昭和10)年から現存するホテル雅叙園東京で唯一の木造建築で、東京都指定有形文化財にも指定されている「百段階段」

江戸時代から令和まで、各時代を象徴するお雛さまを展示

百段階段は、大正・昭和を代表する著名な日本画家たちが、それぞれに美の世界を描いたさながら美術館のような7部屋につながっている。
会場内は展示品保護のために暖房は控えられている。ひんやりとした空気に包まれる階段をコートを着たまま上ると、最初に登場するのが「十畝(じっぽ)の間」だ。
この部屋のテーマは「時を旅するお雛さま/島根のお雛さま」。江戸時代から明治、大正、昭和、平成そして令和まで、各時代を象徴するお雛さまが展示されている。

十畝の間に飾られた「時を旅するお雛さま」から、昭和戦前の京雛。このイベントのために島根県松江市の人形店から寄贈され、文字どおり「百段のお雛さま」になることに

令和元年11月14日、夕方から翌未明まで行われた「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」。白衣に身を包んで儀式に臨まれた両陛下の神秘的な情景が記憶にまだ新しい、令和を代表する雛人形も

時代雛の展示のかたわらの、古民家風の小上がりをイメージしたスペースで、またしても「カワイイ」を発見。
「雛のいる風景」を意識したというその展示には、手のひらサイズの小さな木のお雛さまがたくさん!

出雲大社からほど近い場所にある「吉や」の木製雛。大事にすればするほど艶が出て、持ち主と共に歴史を紡ぐお雛さまだ

よく目にする豪華な段飾りではなく、時代モノの家具にちょこんと座るお雛さまの姿はかわいらしく、これなら気軽に自宅でも取り入れられそう! という気分にさせてくれる。
毎年、春を一緒に愛でる相棒のようなお雛さまがいるのも素敵かもしれない。

ちょこんとそこにいるお雛さま」といえば、イベント会場に入る前のウェルカムスペース、エレベーターを降りてすぐ左側にいたのが、鳥取から来た「守り雛」。

ほかにも、会場内のふとした場所に「ちょこん」と展示されているので、ぜひ探してみてほしい。

会場を移動中、思わず目の端に入ってきて二度見した「守り雛」。エレベーターホールでのお出迎えも見逃しそうな場所にあるので注意

部屋を埋め尽くす、ものすごい数の座敷雛

さて、今回ある意味最大の見どころともいえる展示がされているのが、次の「漁樵(ぎょしょう)の間」。
部屋の3分の2ほどを埋め尽くす、ものすごい数の座敷雛の眺めは圧巻で、もはやどこから見れば良いのかわからなくなるほどだ。

福岡・飯塚の座敷雛は人形だけで約700体! 背景になる五重の塔など今回のために制作したものも多いそう。出展者の気合いに驚く

今回イベントのテーマでもある出雲や因幡の神話をはじめ、京を舞台に源氏物語の雅びな世界なども再現、人形たちの背景までリアルに作り込まれているのも見どころだ。
天皇陛下の即位の際に話題になった「三種の神器」の一つ、草薙(くさなぎ)の剣がヤマタノオロチの尻尾から出ている様子など、目を凝らさないと絶対ないような細かい仕掛けが満載。

三種の神器の一つである草薙の剣がどこに潜んでいるか、実際に見て確かめて!

この百段雛まつり、展示に触れない限りは、思う存分近づいて見ることができるのも魅力の一つだ。

さらに今回は全ての展示が撮影OKなので、この座敷雛も好きなだけ撮影が可能だ。ジオラマのような展示をカメラ越しにのぞいて、そこに表現されているストーリーを探すのも面白い。

好きなだけ近づけるということは、いろいろな角度から眺めることもできるわけで、たとえば展示物を下から覗いてみたら思いも寄らない景色が広がっているかもしれない。

藤の花に見立てた「括り(くくり)猿」。愛らしい猿たちの後ろに天女の姿が隠れている(静水の間)

前列に飾られた小道具の精巧さも、目前で眺められる。指先ほどの小さなクシは思わず「カワイイ…」とつぶやいてしまった(星光の間)

ただ眺めるだけではなくアクティブにのぞきにいってみるのも楽しいので、ぜひ試してみてほしい。

階段を登りきったところにある「頂上の間」には、お雛さまではなく、素朴なフォルムの郷土玩具やポップなカラーに目を奪われる日本全国の郷土玩具のイラストの展示もある。

島根の土人形作家・福美さん(招き猫工房)が作ったフルーツ招き猫のキュートさに目が釘付け

全国各県の郷土玩具を描いたイラストレーター・佐々木一澄さんの作品はポストカードとして、お土産に購入もできる

階段の最上段突き当りには、豪華絢爛な打掛を着て記念撮影ができるフォトスポットも登場! リアルお雛さま気分が味わえる

お茶とお菓子を楽しめる「ひな茶房」は2月14日まで

百段階段の中らへんに位置する「草丘(そうきゅう)の間」では、2月14日(金)までの期間限定で、お茶とお菓子を楽しめる「ひな茶房」がオープン。

百段階段の個室では唯一、窓から外の景色が見える「草丘の間」。ここは暖房の効いた部屋で、11年めとなる百段雛まつりの歴史の中でも「ひな茶房」は初の試みだそう

松江の和菓子をいただく際に使った菓子楊枝は、そのままお土産にもらえるのもうれしい


国内外で活躍するインテリアコーディネーターの手でモダンに飾り付けられた「雛のしつらい」の空間で、お抹茶と和菓子で一服していると、なんだかのんびり春気分。そういえば「今日は嬉しい雛まつり」♪なんて歌もあったのを思い出した。

特別に人形好きでなくても、ついついホッコリする日本のカワイイものたちをたくさん見つけられる「百段雛まつり」。いつもとは少し違った春を感じに足を運んでみてほしい。



「百段雛まつり 2020 出雲・因幡・萩ひな紀行 同時開催 〜雛のしつらい〜」

会場/ホテル雅叙園東京(東京都目黒区下目黒1-8-1)

会期/1月24日(金)〜3月1日(日) ※会期終了

時間/10:00〜17:00(最終入館は16:30まで)

入場料/当日1600円ほか  ※「ひな茶房」は別途1名1000円(税サ込み)

問い合わせ/03-5434-3140(イベント企画 10:00〜18:00)

公式サイト/https://www.hotelgajoen-tokyo.com/event/hinamatsuri2019

 


取材・文/やまだ ともこ(ハッケン!ジャパン編集部)


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