「ホテル雅叙園東京」で、5回目の開催を迎えるイベント「和のあかり×百段階段 2019〜心の色彩〜」が好評開催中だ。
過去4回で累計31万人もの来場者数を記録したそうで、“和のあかり”とWebで検索すれば同イベントの画像が、わらわらとヒットする。
それもそのはず、同イベントは“全室全時間撮影OK”なんである。
写真で見られたら、もうそれで満足じゃないのか?
しかも暖かいイメージの「和のあかり」を猛暑の夏にやる意味とは…?
そんな疑問を胸に足を運び、実際この目で見てきた感想と、自分なりに考えてみた人気の秘密をレポートする。

「百段階段」はホテル雅叙園東京に1935(昭和10)年から現存する木造建築で、東京都指定有形文化財。当時を代表する人気画家によって描かれた日本画が天井や壁面を飾る7部屋をつなぐ、長い階段廊下だ

エントランスホールにつながるエレベーターに施された、見事な螺鈿(らでん)細工に圧倒されるのも束の間、その扉が開いた途端、“ウェルカムねぶた”、圧倒的迫力の「青森ねぶた」に目を奪われるところから、展示はスタート。

青森ねぶたの前には記念撮影をする来場者のためのフェイス用ライトを用意。記念撮影をして美白に撮れたらついでにSNSで自慢したくなりそう。心憎い仕掛けの出迎えに開始早々感心してしまった

どこからともなく風鈴の音が聞こえ、歩を進めると清々しいウッドアロマの香りに包まれ、体にまとわり付いていた暑さが遠のいていくのを実感する。
この香りは同イベントのために調合したというオリジナルブレンドだそうで、あまりの涼やかさに一瞬で気に入ってしまった。会期中ならミュージアムショップで販売もしているとのこと、必ず手に入れようと記憶に刻み込む。
着物の古布などを使った和柄行燈(あんどん)に照らされたホールで履き物を脱ぐと、さらにリラックスした気分に。
このイベントは土足厳禁。観覧には階段の上り下りが必須であるため、ベビーカーや車椅子などの乗り入れはできないので、その点ご注意を。

まるで和のステンドグラスのような行燈。ソファが用意されているので、つい長居してしまいそうな和み空間だ。靴袋の用意はあるが、マイシューズバッグを持参するのもエコで良いかも

うなぎ登りに上昇する期待を胸に、「百段階段」に足を踏み入れる。
ぎしっ…という木が軋む音。足の裏に伝わる、木造建築ならではの感触がどこか懐かしく、さらに心が和む。
そんな、程よく緩んだ私は、最初の部屋「十畝(じっぽ)の間」に足を踏み入れた瞬間、背筋をギュワッっと鷲掴みにされたような感覚に襲われ、思わず「おおっ」という声が出てしまった。

宮崎在住の竹あかり作家・NITTAKEの作品。環境問題である「放置竹林」をアートで解決しているアーティストで、今回の作品も伐採した竹材を使用。テーマは「都会の中に生まれたオアシス〜夏の涼しさ」

想像を超えた“凜としたオーラ”をストレートに全身で受け止め、しぶとくへばりついていた暑さは完全に吹き飛ばされる。

そんな圧倒的オーラの正体は、作品に近付くほどに見て取れる、細工の精密さからきているのかもしれない。
都会のビルをイメージした背面のモチーフと、その間に泳ぐ金魚。
整然と並ぶあかりの列が曲線を描き、涼やかな水の流れを感じさせる。
見る角度が変わると光も表情を変えるので、ここで時間を忘れて呆けたように見とれてしまった。
もともと、百段階段で繋がれた7つの部屋は全て趣向が異なり、それぞれの空間にマッチする作品が展示されている。
だからこそ、空間そのものがアート作品のような部屋も多く、展示と相まってまるで波動のような美しさに息を飲むのかもしれない。

欄間に瑞雲(ずいうん)に煙る松原の風景が描かれた「草丘の間」では、雲に見立てた和傘とダイナミックな龍の切り絵、さらに雷雲と稲光を表現した生け花が三位一体となり、一つの空間をつくりあげる。ぐるりと部屋を見渡さないと全貌が見えないので、見落とさないよう注意

さらに、脳天から涼風を吹きかけられるような気分を演出してくれるのが、ファンタジックな世界観を作り出す電子楽器・テルミン奏者・作曲家のヨダタケシと、世界中の音楽レーベルから多数の作品をリリースするサウンド・コラージュ・クリエーターのJobanshiによる、オリジナルのBGM。
一部屋を除き、それぞれの部屋に合わせて曲がつくられたそうで、音が加わることで、それぞれの展示の世界観がぐんと広がり、包み込まれるような感覚を楽しむことができる。
また、部屋の装飾ともリンクした、異国のあかりとの見事なコラボレーションを見せているのが「漁樵(ぎょしょう)の間」。
床柱に、中国の漁樵問答の一場面が精巧な彫刻で施されたこの部屋を彩るのは、極彩色のランタン(中国提灯)だ。
中国なのになぜ“和のあかり”かというと、このランタンは毎年、旧正月の時期に、100万人を超える人々を魅了するという「長崎ランタンフェスティバル」で使われたものだから。

“竜宮城”をテーマに飾られた「漁樵の間」。「長崎ランタンフェスティバル」は、長崎新地中華街を中心に、旧正月(春節)を祝う行事として、期間中1万5000個のランタンが街中に飾られる

この部屋へと続く廊下からして、無数に連なる真っ赤なランタンが幻想的で、異世界に足を踏み入れたかのような気分。
「十畝の間」の単色のあかりとの対比も面白かった。
さらに上へと歩を進めると、思いもよらぬ方向にガラリと趣が変わる。
唯一、BGMを流さない「静水の間」では、計算し尽くされたあかりのもとで、「東京手仕事」プロジェクトによる伝統工芸の作品を展示。
職人の匠の技と心意気によって磨かれた品々が、繊細なあかりによって、いつもの光の元で見ることのできない姿を靜かに浮かび上がらせている。
特に、まるで花びらが開くかのように光を放つ江戸切子のグラスは必見。
暗闇の中、わずかな光の中にあるからこそ見ることができる美しさは、想像をはるかに超えるものだ。
また、深く心を奪われたのが、「星光の間」に展示されていた「籠染灯籠」。
籠染とは模様をエッチングした真鍮板を円筒状にした型を使う染物で、裏地にも同時に別の柄が刷れるのが特徴で、ゆかた生地の工場に使われていたのだが、近年では受注が減り、ついにその歴史を閉じた。
この日本最後の技術を未来につないでいきたいとの想いで生まれたのが「籠染灯籠」なのだそう。

日本で唯一の「籠染め」で浴衣生地を生産していた「中野形染工場」(埼玉県越谷市)とハナブサデザインのコラボレーションで蘇った「籠染灯籠」。通常は中に和紙を貼るそうなのだが、今回はその細工を際立たせるために、直接あかりを当てている

実際に使用された型をそのままの状態で灯籠にしているので、基本的に1点もの。中からあかりが点くと、粋な和柄がまるで溢れ出るかのように辺りを照らす。
消えゆく職人の技術が新たな形で生まれ替わった姿は、感傷を感じつつも、この美しさを残せたことに希望を抱くこともできる作品。
そのほか、かんざし作家や造形作家、折り紙作家など多種多様な“和のあかり”を体感できる空間が用意され、「頂上の間」には京都から取り寄せた「おじゃみ座布団」に座って、のんびりとサンドアートを眺められるコーナーも。

福岡在住の造形作家・入江千春による、素焼きの人形と照明、博多弁を合わせた灯りのオブジェ“あかり絵”。ほのぼのとした表情の子どもたちが懐かしいふるさとの風景の中で元気に遊ぶ

頂上に着く頃には、すっかり暑さを忘れ、心も体もスッキリと“暑気払い”されていた。
どれもこれも、初めて見る景色なのにどこか懐かしく、日頃忘れかけているような景色を目の当たりにさせてくれる。
実物を目にした正直な感想は、「写真と実物は、完全に別物」。
確かに美しく切り取られた写真が数多くSNSで投稿されているが、それでも生で見たいと思わせる魅力が、イベントの人気の秘密なのではないだろうか。
まるで飲み込まれるかのように、あの空間の中に身を置いてみた人なら、きっと分かっていただけると思う。
週末やお盆休みシーズンも、夕方以降の時間は比較的穴場ということなので、ゆっくり見学したい人は平日、それも仕事帰りやお出かけ帰りがおすすめ。


和のあかり×百段階段2019〜心の色彩〜
期間:2019年9月1日(日)まで ※終了
時間:10:00〜17:00
期間中の金・土曜および8月11日(日)〜18日(日)は20:00まで、8月10日(土)は17:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前
料金:当日券1600円、未就学児は無料
場所:ホテル雅叙園東京
問い合わせ:03-5434-3140
(イベント企画 ※10:00〜18:00)
https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/wanoakari2019


取材・文/やまだともこ(ハッケン!ジャパン編集部)

 


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