七五三 写真協力:Dreamin' Dreamer 

秋の神社といえば七五三。晴れ着を着た小さな子どもの手を引いた家族の姿を見かけることも多くあるはず、
コロナ禍となった2020年以降も、それは日本全国どこでも変わらない光景だった。そしてコロナ明けの今年も、早いうちからスタジオでの前撮りや神社にお参りの予約をしたご家庭も多いようだ。

では、なぜ七五三のお祝いなのか? 
人生の節目を迎えるお祝いが決まって三歳・五歳・七歳に行われてきた理由を知っているだろうか?

感染が心配で外出がはばかられる時期は特に、お参りに行くのも止めておいた方がいいのか? せめて記念の写真だけでも撮っておく?? 
それは本来の意味からは違うのだと語るのは、東京・阿佐ヶ谷の馬橋稲荷神社の本橋宣彦さん。神社での結婚式をより良いものにするために活動する「神社挙式研究会」代表というお立場でもある。
略して「七五三」、正しくは「七五三詣り」の本来の意味とありかたについて、お話を伺った。以下、インタビューの内容は
●三歳・五歳・七歳、それぞれに意味がある
●お詣りの経験で親が子どもに伝えられること

 

三歳・五歳・七歳、それぞれに意味がある

コロナ禍の影響もたしかにありましたが、その前から、昔に比べたら神社に七五三のご参拝にいらっしゃる方はずいぶん減りましたね。
きれいな着物を着て写真を撮る、それが七五三だと思っている方も、多くいらっしゃるんじゃないでしょうか。

本来はそうではなく、七五三というのは、子どもの成長に欠かせない人生儀礼、つまり「儀式」でした。
大昔の日本は食糧事情も悪く、生まれた幼子がちゃんと成長することは簡単なことではなかった。三歳・五歳・七歳、それぞれの年齢まで無事に成長できたことを神様に感謝し、年齢に見合った魂になるための儀式。これが「七五三」なんです。

「三つ子の魂 百まで」という言葉をご存じでしょうか。三歳までに躾けられたことは百歳まで影響する、つまり人の心の核となるものを培う、大事な年頃だという意味です。
まだ小さいとはいえ、きちんと躾けられた子どもは、短時間の儀式なら、ちゃんと座っていられるだけの心ができあがっています。

今は女の子しか三歳のお祝いをしないことも多いですね。それにはどうやら、男の子には着せる着物がないという理由があるようです。
しかし、本来「三つ子の魂」には男女の違いはありません。
専用の着物でなくとも、よそ行きのきちんとした服装なら大丈夫。男女ともに三歳はお祝いをしたいものです。

五歳は、男の子のためのお祝い。それまでは男女区別のない着流しの着物でしたが、五歳でちゃんと男性の正装である袴を着けて行います。
この儀式は、江戸時代の武家の習いからきたもので、単に「子ども」だった者が「男子」としての教育を始めるという意味がありました。

これに対して、きものを着て帯を締める、女の子だけのお祝いが七歳
女性としての心と嗜(たしな)みを身に付け始めることを求められます。

男の子の五歳と、女の子の七歳。どちらも意味は同じで「その年齢にふさわしい魂の切り替え時・魂づくり」のための儀式です。
ちなみに、昔は「七歳で氏子入り」ともいわれました。「氏子」(うじこ)というのは、地域を守る神様である「氏神様の子」、という意味。つまり、七歳になると、地域社会を構成する一員だと考えられたわけです。

こうした人生節目の魂づくりは、子どもだけで行えるわけではありません。親と周りの大人たちが導きながら儀式を行うことで、その時その時で必要な魂の成長を子どもに伝え、体感させていくのです。
そのためには、まず大人が、人としての核を作っていくことの大切さ、儀式や参拝の意味を正しく知っていないといけません。

七五三詣りには晴れ着を着る、その意味をご存知でしょうか? 本来は、神様に喜んでいただくため
本人や家族が見て楽しむというよりも、ご神前に上がるのにふさわしい姿として、七五三の晴れ着があったのです。

参拝の経験で子どもに伝えられること

さて、神社で七五三の参拝をすることで、子どもたちに伝えられることがあります。

七五三が始まった江戸時代と違って、現在の日常生活には「きちんとする」「畏(かしこ)まる」ということが大変少なくなっています。
目にはみえないけれど、そこにいらっしゃる神様に対して畏まり、きちんと心を向けて手を合わせるという経験は、人としての核づくりに、とても大事なことです。
目に見えないもの・もの言わぬものに対する感性は、私たち日本人が古来いにしえより持ってきたものでした。

話が少し逸れますが、現代社会の問題点の多くは、こうした感性が失われてきたことが大きな原因ではないのか、と私は思っています。
だからこそ子どもたちには、目に見えない大切なものへの感性を持っていて欲しいと願います。

七五三の意味のお話に戻ります。

ご存知のように、神社では「二拝二拍手一拝」という参拝作法がありますね。
「拝(はい)」はお辞儀、「拍手(はくしゅ)」はその名の通り、手を合わせて打つこと。「柏手(かしわで)」とも言います。
この作法を、家族がピッタリそろって行うことにもまた意義があります。
親が発する気配を子どもが感じ取り、息を合わせて拝をし、軽やかな響きで柏手を合わせて打つ。柏手は、魂と魂をつなぐ法です。
神様と人、そこに集う人と人。目に見えない気を通して「家族がひとつになる」ことの体験は、子どもの成長のための大きな財産なります。

コロナ明けの七五三詣りで気を付けたいこと

今年も、暦の上での七五三は変わらず11月15日になります。
しかし新たな感染リスクも懸念される今、曜日や時期・場所・時間帯を選ぶなど、集中を避けるための工夫は、これからも必要があるでしょう。
わざわざ遠出して有名神社まで行くよりも、近くにある地元の氏神様で家族だけのお詣りというのもよいのではないでしょうか。

馬橋稲荷神社は決して大きな神社ではありませんが、電話やメールで予約をいただいて、七五三のご祈祷は一組ずつ丁寧に行っています。
そのような考え方をされる神社は、日本全国多くの地域で、きっと周りに見つかるはずです。

ちなみに、コロナ禍のときも、私は祝詞(のりと)をあげる時にはマスクをしませんでした。もちろん、いまも同じです。
祝詞は参列者との会話ではなく、目には見えないけれどそこにいらっしゃる神様に向かってお伝えをする、そのための言葉ですから。


※記事は2019年秋に実施したインタビュー原稿に2020年以降、実情に応じた改訂を毎年行っています。


お話を伺った人:本橋宣彦さん
神前結婚式の普及と活性化を目指す神職と企業関係者による「神社挙式研究会」代表。馬橋稲荷神社(東京・杉並区)禰宜

 


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