言葉の成り立ちを知る
ふだん何気なく、当たり前に使っている日本の言葉。そもそも、日本語には3つの種類があるのをご存知だろうか。
日本は古くから他の国々の言葉を巧みに取り入れながら、独自の豊かな表現の世界をつくり上げてきた。その成り立ちを知り、美しく味わい深い「和の表現」を使いこなすことができれば、今までとは違った印象を残せるかもしれない。
①大和言葉
日本固有の語彙。やまとことば、和語ともいう。平安時代に宮中で使われていた雅な言葉を指すこともあるが、一般的には漢語と外来語を除く、元からあった日本語のことをいう。やわらかく美しい響きが特徴で、どこか懐かしい雰囲気をもつ。
②漢語
古い時代に中国から伝わり日本語に取り入れられた言葉や、漢字の字音で構成される語彙のこと。漢字を組み合わせて新しい言葉を生み出す造語力に優れ、大和言葉に比べると響きが強く、やや硬い印象を与える。
③外来語
中国以外の国々の言語から借りて、自国語と同様に使用するようになった語。借用語ともいう。古くはオランダ、ポルトガル、明治以降になると英米やドイツ、フランスなどから大量に伝来。一般にカタカナで表記される。なお、和製英語を含む「カタカナ語」は、厳密には外来語とは区別されている。
大和言葉の印象と効果
大和言葉(やまとことば)は、私たち日本人にとって親しみやすく、やさしい印象を与える。
たとえば、四季を表す「春夏秋冬」という一語をとってみても、「しゅんかしゅうとう」と音読みにすれば漢語になるのに対し、「はるなつあきふゆ」という訓読みが本来の日本語における読み方となる。
2つの読み方を比べると、訓読みした方が素直に言葉の意味が入ってくるはず。それはなぜか? 訓読みすることで、言葉の説明になるからだ。
たとえば「学習」とは「まなびならう」こと。これは辞書に書いてある説明でもあるが「がくしゅう」という音読みを訓読みに変えるだけで、言葉の意味の説明になっている。
つまり、大和言葉を使うと、その言葉の説明が同時になされるということだ。
「驟雨(しゅうう)への遭遇(そうぐう)を危惧(きぐ)し、外出を躊躇(ちゅうちょ)した」と漢語連発で言われても、パッとその情景を思い浮かべることは難しい。これを「にわか雨にいきなり降られることを恐れて、外へ出るのをためらった」と言い換えれば、意味がわかって、ああなるほど、と納得できるのでは?
身近な言葉を言い換えてみる
よく使われる「超~」「マジ~」は、程度を表す接頭語だ。たしかに便利ではあるものの、聞く人の心に本当に響いているか考えてみたことはあるだろうか。簡単な「超」ではない、わざわざ別の言葉を使うことでインパクトが生まれてくる。
「超~」「マジ~」を大和言葉に置き換えてみると、「このうえなく」。大和言葉特有のやわらかさと穏やかさを持つ言葉に変わる。
「これより上のものがない」という意味で、「このうえなく美味しい」「このうえなく美しかった」などと使う。最高に、という漢語では表現しきれない、あふれる想いを生き生きと伝えることができる。
さらに、心を打たれたとき、感激したときには、より優雅な「いたく」が似合う。漢字にすると「痛く」で、痛みを感じるくらい強く心を打たれたということ。
懐かしさや愛しさを伝えたいときは、「こよなく」がしっくりくる。「家族をこよなく愛している」と言うと、愛情表現の奥行きが増して聞こえるから不思議だ。
他にも、「既読スルー」や「ドヤ顔」「ニート」「リア充」などのイマドキ言葉も、大和言葉に言い換えることができる。
読んだ形跡があるのに返信がない既読スルー。昔は、便りを出したのに返事が届かない状態を昔の人は「片便り」(かたたより)といって嘆いた。返事がなくてヤキモキするのは、いつの時代も同じ。
どうだ、やってやったぜ!のドヤ顔は、うまく「したり」(「した」の完了形)の「したり顔」。
ニートは、「すねかじり」。足の「すね」にはかつて「労働」という意味があり、そこから独立した生活ができない子どもが親の労働(稼ぎ)に頼っている状態を「すねをかじる」というようになった。
すっかり定着した「リア充」。リアルが充実している、すなわち恋人がいて心が満たされている状態は、大和言葉では「仕合わせ」(しあわせ)。「し」=「する」と「合わせる」、つまり出会うべき人と出会ったという意味。「幸せ」と音は同じでも、成り立ちを知り表記が異なるだけで、ずっと落ち着いた印象を受ける言葉になる。
この他にも、「リスペクト」は「一目置く」、「アナウンス」は「事触れ(ことぶれ/世間に広く知らせること)」。
「コネクション」は「伝(つて)」、何かをうまく運ぶための役に立つ人間関係のこと。
「サプライズ」は「魂消る(たまげる)」、たま=魂、げる=消える、つまり気を失うほど驚くという意味)。「テリトリー」は「縄張り(なわばり)」。
仲間うちで気軽に使っている言葉を局面に合わせて言い換えてみることによって、誰かの心に深く届く伝え方ができるのなら、利用しない手はない。
さらりと使えば、知的に美しく見える。新しく知って気に入った大和言葉を心に留めておくと、表現の幅はグッと拡がる。
慣れないと古めかしく感じられるかもしれないが、使ううちに馴染むもの。大和言葉を取り入れて、言葉からも印象アップを実践してみよう。
きもの画像協力/KIMONO MODERN
【参考文献】
・『美しい日本語と正しい敬語が身に付く本 新装版』日経おとなのOFF特別編集(日経BP社)
・『美しい日本語と正しい敬語』(学研)
・『日本の大和言葉を美しく話す―こころが通じる和の表現―』高橋こうじ(東邦出版)
・『これを大和言葉で言えますか?』知的生活研究所(青春出版社)
・『雨のことば辞典』倉嶋厚・原田稔 編者(講談社学術文庫)
・『伝わる文章の書き方』高橋廣敏(総合法令出版)
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