はじめまして。イラストレーターの辻ヒロミです。
京都に生まれ、絵が大好きな祖父の影響で幼い頃より絵を描いて育ちました。成人し、長年作品のテーマとして描き続けているのが、上にある絵のような現代の感覚を取り入れた着物美人画です。
私は着物を描く時に気をつけていることが二つあります。
一つは、「(絵の人物の)着姿が美しいこと」。そしてもう一つは、「色がすっきりとしていて、上品であること」。
この2点は自身が着物を着る時にも同じように意識していることですが、それは誰かに指摘されたわけではなく、自然とそうなりました。改めてなぜそのように意識するようになったかを考えると、それはやはり「京都」という土地で日々目にするものの色や形、佇まいが深く影響しているのだと思います。
粋な和服姿の人、朱塗りの鳥居、風に揺れる老舗の暖簾。京都の街を歩いていると沢山の美しい色に出合えます。
そしてそれらには日本古来の伝統色が使われています。
「伝統」の二文字が付くと急に畏まってしまいそうですが、決してそのような事ではありません。日本古来の色の世界には、自然に習い、自然を愛でる心の余裕と、暮らしを愉しむ知恵や洒落心が溢れていて、絵を描かない人でもその色と色名を目にするだけで、きっと心にふわっとしたものを感じられるはず。
前置きが長くなりましたが、こちらでは毎回、日本の伝統色から私辻がインスピレーションを受けた1色を取り上げ、描きおろしの作品と一緒にご紹介していきたいと思います。
「鴇色(ときいろ)」
第一回は「鴇色(ときいろ)」です。
華やかでありながら、どこか落ち着きのあるこの淡い桃色は、その名のとおり、鳥のトキ(朱鷺・鴇)の羽の内側の色に由来します。
トキの学名はNipponia Nippon(ニッポニア・ニッポン)。国鳥ではありませんが、日本を象徴するような名前です。特別天然記念物に指定され、国際的にも保護鳥となっているため、そう簡単には実物を見ることが出来ませんが、私たちの生活に身近な郵便切手の中にその姿を見つけることができます(10円切手がトキです)。
「鴇色(ときいろ)」という色と言葉が生まれた江戸時代、トキは今のように貴重な生き物では無かったようです。日本の伝統色には「雀茶(すずめちゃ)」「鶯色(うぐいすいろ)」など、鳥の羽色に由来する色がいくつかあるように、トキもその昔はごく身近な生き物としてこの国に生息していたことが伺えます。
なので、おそらく江戸時代の人たちには感じられなかった「レア感」が、私たち現代人にはプラスされ、この色をより「美しい」と感じているのかもしれない、などと想像してみたり……。昔の人々が見た景色、感じたものを想像しながら、現代の私たちの目と心で日本の伝統色を見てみると、また新たなハッケンがあるかもしれません。
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