立春も過ぎ暦の上ではもう春ですが、日によって寒かったり空気が和らいだり。まさに三寒四温の季節ですね。それでも晴れの日には鳥の声がより近くに感じられ、春はもうすぐそこに来ていることを教えてくれます。

今回ご紹介するのは、そんな春の訪れにぴったりの「鶸色(ひわいろ)」です。

令和元年五月に行われた天皇陛下即位後初の一般参賀の際、皇后陛下が着用されたドレスがこの鶸色で、当時話題となりました。皇后さまがお召しになられたその色からは新たな時代のはじまりが感じられ、令和の時代が和らかな光に包まれていくような、そんな素敵な印象を受けました。

色名の鶸(ヒワ)はマヒワというスズメ目アトリ科の鳥で、秋にユーラシア大陸から日本に渡来し、冬を越し春を迎えます。第一回でご紹介しました鴇色(ときいろ)と同様にその美しい羽根色を模した色ですが、鶸色のこの目の冴えるような明るい黄緑色は、おそらく羽根の光沢色の部分をあらわしているものと思われます。

マヒワは冬鳥ですが、ビビッドでありながら気品と華やかさを備えたこの色は、春夏には爽やかさを、秋冬には陽の光の暖かさを感じられるので、通年を通して愉しめる色ではないでしょうか。その色自体に輝きがあるので、華やかな場やおめでたい席にも良さそうですね。

そして、もう一つ良いところが赤を綺麗に見せてくれるところ。鶸色がもう少し緑に寄ると「鶸萌黄(ひわもえぎ)」となり、更に緑に寄った色が「萌黄(もえぎ)」となります。このあたりの色は京都の舞妓さんの衣装でもよく見られ、舞妓さんの化粧や真紅の帯揚げの色などを美しく引き立たせています。

昔の人は目視だけでその羽根色を捉えていたと思うのですが、ヒワなどはスズメよりも小さく動きも速いのに、その羽根色の光沢までも表現できる観察力や技術に驚かされます。それは単に目が良い腕が良いとかいうことではなく、陽の光を受けた小鳥の羽根の美しさをよく知っているということ。

今は性能の良いカメラで鳥も連写で撮れますし、動画もスマホで簡単に撮れる時代ですが、そのせいで逆に見えなくなっているものも多いです。この色を通して色々と考えるきっかけをいただきました。日本の伝統色は、いつも私の先生です。


イラストと文/辻ヒロミ


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