山々が日々紅葉し、冬が近づいてまいりました。自然から季節の便りをもらうとき、私は四季がある日本に生まれた事を、沁み沁みとしあわせに感じます。
みなさんは日本を象徴する樹木と聞かれると何をあげられますか?「桜」「松」「梅」などをあげられる方が多いでしょうか。

花期が限定される桜や梅に対し、松は常緑樹で一年を通してきれいな緑を見せてくれます。今回ご紹介するのは、この松にまつわる「千歳緑(せんざいみどり)」という色です。

「千歳」とは「千年」を意味します。「千歳緑」は、季節の移り変わりの中でも常に変わらず美しい緑を保つ常磐(ときわ)の松をあらわします。
色は少し黄味がかった深い緑で、落ち着きのある色です。

この色には「永久不変」や「不老長寿」といった縁起の良い意味が込められています。

松の木をよく見てみると、どっしりとした幹からうねうねと枝を伸ばす特徴的な枝ぶりや、閃光のごとく広がる松葉の勢いに豪快さを感じるのと同時に、その佇まいからは神々しさと静けさを感じます。
この色名を知る以前から、私にとって松は絶対的な安泰のイメージがありまして、今回、その理由を考えてみました。

古来より神社仏閣や日本庭園に多く使われている樹木なので、身近な木といえばそうですが、それだけに留まらず、松がこの国で昔から、門松などの縁起物の飾りや美術工芸のモチーフとして多種多様に使われ、そうしたものたちに自分が無意識のうちに沢山触れてきたことが影響しているのではないかな、と思いました。

松の色や意匠に願いを込め、先人たちが取り入れ受け継がれてきたものが、現代でも多くの人々の目や手の中に当たり前のように在るということは、とても凄いことだと思います。普段何気なく見過ごしてしまいそうですが、有り難い事ですね。

寿命ある私たちが、松のように千年変わらぬ美を伝えて行く事はそう簡単な事ではありません。
そこに込められた想いを尊び、分かち合い、これからも日々の暮らしに活
かしていく事がきっと大切でしょう。そんな事を、「千歳緑」は教えてくれました。


イラストと文/辻ヒロミ


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