1月1日・元旦から始まるお正月の初詣(はつもうで)と同じように1年の折り返し点となる7月1日から神社仏閣にお参りに行くのが「夏詣」(なつもうで)。日本の夏の新しい風習として、いま全国的に広まりつつある。
その発祥の地で、いまも旗振り役となっているのが東京下町に初夏を告げる三社祭の「三社様」(さんじゃさま)として知られる浅草神社
今年の夏も、浅草神社では6月30日の前夜祭(夏越の祓)につづき、7月1日~7日まで1週間に渡って夏詣を実施。
2014年から毎年、コロナ禍にも立ち止まることなく実施されてきた浅草神社の夏詣は以前にもまして充実、多彩な賑わいを感じさせる内容になっている、
★今年の浅草神社 夏詣プログラムはこちらより

夏詣期間の浅草神社は浴衣姿が良く似合う

神社やお寺に足を運ぶのは一年のうちでお正月くらい、という人も少なくないだろう。じつは夏の時期にも、古くから受け継がれてきた季節のお祭りがある。
それは、「茅の輪くぐり」をすることで知られる「夏越の祓」(なごしのはらえ)。日本中の神社で、毎年6月30日に行われてきた。
神社の大祓(おおはらい)は年に二度あり、ひとつは12月31日、大晦日(おおみそか)に行われる「年越の祓」(としこしのはらえ)。これに対して「夏越の祓」は、1年の半分が過ぎたところで身についた罪や穢れ・災厄を落とし、心身とも清らかな状態で残り半年を過ごすために全国各地で古くから行われてきた。

6月30日は夏越の大祓神事と竹参道点灯式が行われる(浅草神社)

年越の祓があって新年初詣が始まるのと同じように、6月30日「夏越の祓」の翌日、7月1日から神社仏閣に足を運ぶことを「夏詣」と名付けて本格的にスタートしたのは平成26年(2014年)のこと。

「私たち日本人が大切にしてきた文化を受け継ぎ、後世に伝えていく。その橋渡しを担っていくこともまた、神社の役割と考えています。浅草神社であれば、初詣と、5月開催の三社祭、さらに夏にも神社に足を運んで、日本の文化と風習に触れてもらいたい。そこで始めたのが夏詣です」

始めた当時の想いを語るのは、浅草神社宮司で自ら夏詣の実行事務局員でもある、土師(はじ)幸士さん。

新しい風習は、浅草神社から東京の神社へ、そして全国へ。コロナ禍の3年間も可能なかたちで続けられ、12回めとなる今年度は全国で587 の社寺が参画(令和7年6 月25日時点)。いまも夏詣は広がり続けている。
参画する社寺では、共通の夏詣提灯と幟(のぼり)を掲げ、それぞれに夏詣を実施。期間も内容も神社によって異なり、早いところでは6月中旬から始まり、最長で8月末頃まで開催される。
(参画社寺と、開催時期・実施内容の最新情報については夏詣 公式サイトで更新中)

 

ライトアップされて幻想的な夜の「竹参道」(浅草神社)

この時期にある夏の節句といえば7月7日「七夕」(たなばた)だが浅草神社では、毎年この日に「井戸洗い神事」が行われる。

「江戸時代、井戸は町の人々の生活を支えるとても大切な水源でした。江戸の町のすべての長屋に井戸があり、7月になると人々は感謝をこめてみんなで井戸の掃除をしました。ここ浅草神社にも当時から残る井戸があり、江戸時代にならって井戸洗いの神事を執り行っています。夏詣の期間中、井戸へと続く参道は“水参道”として地元の皆さんが藍染めした幟(のぼり)が連なり、とても風流な雰囲気です」(土師さん)

また、7 月7日は「そうめんの日」でもあり、浅草神社では境内での「流しそうめん」を5・6 ・7 の3日間にわたって開催する。

浅草神社境内の「水参道」。藍染め体験教室も開催され手づくりの幟が並ぶ

旧暦6月1日、いまの7月1日は、もともと山開きの日。富士山をご祭神にもつ全国の浅間神社(せんげんじんじゃ)では「開山式」が行われる。
江戸時代に盛んになった富士山信仰を今に伝える「冨士講詣り」は夏詣でも行われ、この日には浅草神社の近くの浅草浅間神社の冨士塚に山伏がお詣りをするのが恒例。
また、平安時代からの和食の伝統を今につなぐ調理の儀式「式包丁」(しきぼうちょう)の奉納も例年行われている(7月2日)。

このような、暮らしの中で息づいてきた日本の伝統文化に触れられる体験を、浅草神社では夏詣以外でも多彩に用意している。

「もともと、神社は祈りの場であると同時に人々が集まるコミュニケーションスポットでした。浅草神社の夏詣では、神事だけではなく、さまざまな行事やイベントが開催され、地域の交流の場としても活用してもらっています」(土師さん)

公式サイトで発表されているプログラム一覧を見ると、浅草神社での夏詣では、日本の文化を楽しみながら学べるコンテンツが多彩に用意されていることがよくわかる。

藍染めの色が夏らしい風情を感じさせる「水参道」、夜にはライトアップされて幻想的な「竹参道」、七夕といえばの「天の川」は今年からリニューアルされて新たな装いに。小さな太鼓橋の上で願いを書いた短冊を竹飾りに結ぼう。さらに、風に揺れる風鈴の音色が涼しい「風参道」も。お詣りに訪れるたくさんの参拝者を、この期間だけの装いで毎日迎えてくれる。

今年の新企画は「夏の食・夏のはしご酒」
徳川ゆかり3神社を巡る「まちあるき」も

浅草神社の夏詣は、神社の内外でさまざまな連携企画が充実していることにも注目したい。


地元・浅草商店街では、浅草観音裏の24店で「夏の食・夏のはしご酒を、夏詣期間の6月30日から7月7日まで連日実施する。
下町情緒あふれる街並みに新旧の飲食店が点在する楽しいエリアで、各店が趣向を凝らした夏テーマのフードとワンドリンクのセットを1000円のお得なワンプライスで提供。
参加店舗では「マップ&スタンプ用紙」を配布、それを持って気になるお店を回ってみるスタンプラリーも。達成すると、もれなく嬉しい景品プレゼントがもらえる。

「徳川ゆかりの神社まちあるき」は、神社好きなら見逃せない新企画。大河ドラマ「べらぼう」で大注目の江戸文化が感じられる都内3つの神社を、神職さんのお話つきで参拝する
行き先は浅草神社(7月1日)だけではなく、赤坂氷川神社(7月30日)、根津神社(8月4日)。いずれも徳川幕府との縁が深く、江戸時代につくられた木造ご社殿が現存する都内では希少な神社だ。
同じ夏詣でも、拝殿内に上がっての正式参拝という特別な体験ができ、各神社ならではのおみやげつき。各回15名限定で参加料金は3500円。個別にも、3回まとめて申込みもできる。
詳細は、夏詣公式サイトで。

コロナ禍の2021年、やはり浅草神社からスタートした「夏詣盆をどり」は、夏詣の新たな楽しみとしてすっかり定着。
7月1日に無料で参加できる練習会があり、5日(土)と6日(日)の夜18時から、本番の盆をどりを開催予定。
地域の皆さんや海外からの観光客、神職さん、巫女さんも加わって踊りの輪が広がっていく和やかな雰囲気は、ここ浅草ならでは。公式サイトから予約すれば一緒に踊ることもできる!
オリジナル手ぬぐい付きで参加費は1000円、事前予約の先着順となるが、当日の状況次第では飛び入り参加も可能。

そのほか体験型のワークショップもいろいろあり、有料コンテンツはWEBから予約できるので、夏詣 公式サイトで一覧をチェックしてみよう。


お正月の初詣で日本の新年の清々しさを感じるのと同様に、茅の輪くぐりから始まる「夏詣」は、時代が変わってもなぜだか懐かしい日本の夏の風情をたっぷりと感じさせてくれるはずだ。
浅草神社の夏詣は、7月最初の1週間。全国各地それぞれに実施されているから、近くの神社やお寺に行ってみるのもよさそう。


取材協力/日本の新しい習慣「夏詣」実行委員会
・夏詣公式サイト https://natsumoude.com
・浅草神社 夏詣公式サイト https://natsumoude.jp/
 


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