1月1日・元旦から始まるお正月の初詣(はつもうで)と同じように1年の折り返し点となる7月1日から神社仏閣にお参りに行くのが「夏詣」(なつもうで)。日本の夏の新しい風習として、いま全国的に広まりつつある。
その発祥の地で、いまも旗振り役となっているのが東京下町に初夏を告げる三社祭の「三社様」(さんじゃさま)として知られる浅草神社
今年の夏も浅草神社では6月30日の前夜祭(夏越の祓)につづき、7月1日~7日まで1週間に渡って夏詣を開催。
コロナ禍の3年間も縮小・制限ありながらも開催を重ねて全国に元気を届け続けた浅草神社の夏詣は、ついに記念すべき10回めを迎える。

浴衣姿が良く似合う、浅草神社の夏詣(2019年以前の様子)

神社やお寺に足を運ぶのはお正月くらい、という人も少なくはないはず。じつは夏の時期にも、古くから受け継がれてきた季節のお祭りがある。
それは、各神社で毎年6月30日に行われる「夏越の祓」(なごしのはらえ)。「茅の輪くぐり」をすることでも知られている。
大祓(おおはらい)は年に二度あり、ひとつは12月31日、大晦日(おおみそか)に行われる「年越の祓」(としこしのはらえ)。これに対して夏越の祓は、1年の半分が過ぎたところで身についた罪や穢れ・災厄を落とし、清らかな状態で残り半年を過ごすために全国各地で古くから行われてきた。

6月30日 夏越の大祓神事と竹参道点灯式(浅草神社)

年越の祓があってから初詣が始まるのと同じように、6月30日「夏越の祓」の翌日、7月1日から神社仏閣に足を運ぶ、それが「夏詣」と名付けられて本格的にスタートしたのは平成26年(2014年)のこと。

「私たち日本人が大切にしてきた文化を受け継ぎ、後世に伝えていく。その橋渡しを担っていくこともまた、神社の役割と考えています。浅草神社であれば、初詣と、5月開催の三社祭、さらに夏にも神社に足を運んで、日本の文化と風習に触れてもらいたい。そこで始めたのが夏詣です」
当時の想いを語るのは、浅草神社宮司で自ら夏詣実行委員でもある、土師幸士さん。

コロナ禍の3年間も、可能なかたちで夏詣は続けられた。そして10年めとなる今年は全国451 もの社寺が参画予定(令和5 年6 月10 日時点)、止まることを知らず夏詣は広がり続けている。
参画する社寺ではそれぞれに夏詣提灯と幟(のぼり)を掲げ、様々な夏詣を実施。早いところでは6月中旬から始まり、最長で8月31日まで開催される。
(社寺によって開催時期と実施内容は異なるため、詳細は夏詣 公式サイトで確認を)

ライトアップされて幻想的な夜の「竹参道」(浅草神社)

夏の節句、7月7日の風習といえば「七夕」(たなばた)が有名だが、浅草神社では毎年この日に「井戸洗い神事」が行われる。

「江戸時代、井戸は町の人々の生活を支えるとても大切な水源だったんです。すべての長屋に井戸があり、7月になると町の人々は感謝をこめてみんなで掃除をしました。ここ浅草神社にも当時から残る井戸があり、江戸時代にならって井戸洗いの神事を執り行っています。夏詣の期間中、井戸へと続く参道は“水参道”として地元の皆さんが藍染めした幟(のぼり)が連なり、とても風流な雰囲気です」(土師さん)

7 月7 日は「そうめんの日」でもある。浅草神社では恒例の「流しそうめん」を6 日・7 日に開催。コロナ前までは毎年開催され、みんなが楽しみにしていたイベントが今年は復活する。

浅草神社境内での「水参道」。藍染めの体験教室も開催される

旧暦6月1日、いまの7月1日は、もともと山開きの日。富士山をご祭神にもつ全国の浅間神社(せんげんじんじゃ)で開山式が行われる。
江戸時代に盛んになった富士山信仰を今に伝える「冨士講詣り」は夏詣でも行われ、この日に山伏と浅草浅間神社の冨士塚にお詣りをするのが恒例。
また、平安時代からの和食の伝統を今につなぐ調理の儀式「式包丁」の奉納が今年も行われる(7月4日)。

浅草神社では、暮らしの中に息づいてきた日本の伝統文化に触れられる体験を、夏詣のとき以外でも多彩に用意してきた。

「元来、神社は祈りの場であると同時に、人々が集まるコミュニケーションスポットでもありました。浅草神社の夏詣では、神事だけではなく、さまざまな行事・イベントを開催、地域の交流の場として活用してもらっています」(土師さん)

夏詣 公式サイトで発表された今年のプログラムを見ればわかるとおり、日本の文化を楽しみながら学べるコンテンツが驚くほど多彩だ。

神社の境内を歩くだけでも、夏らしい涼やかな色と風情が楽しめる「水参道」、夜にはライトアップされて幻想的な趣の「竹参道」、ひとつずつ想いを込めた光る石が輝く「天の川」も。さらに風鈴の音色で風を感じる「風参道」も加わって、毎年新たな風景で訪れる参拝者を迎えている。

浅草に「夏詣盆をどり」と日本三大盆踊り
阿波踊り・郡上踊り・西馬音内盆踊りが集結

浅草発祥十年を見据えて2年前からスタートした新しい企画が「夏詣盆をどり」。今年は、日本の三大盆踊りが浅草に集結する。
7月1日には浅草六区にて午後4時より「阿波踊り」、夜の7時からは浅草神社の境内で「郡上踊り」と「西馬音内盆踊り」が披露される。
もちろん、一緒に踊ることもできる。浴衣に着替えて夏詣盆をどりオリジナル手拭いを持って一緒に踊ろう!
※境内警備・コロナ対策・手拭い付きで参加費は1000円、事前予約制。当日の空きは問い合わせを。
※浅草発祥十年記念のオリジナル手拭いは、期間中連日、本部テントにて販売。

最終7月7日にも夏詣盆をどりが行われ、オリジナル選曲の盆をどりを楽しめる他、NHK「どうする家康」の舞台として注目の三河「JA 愛知東」コラボ企画も。東京にはアンテナショップがなく、ご当地でしか味わえない新城市豊根町のトマトジュースやブルーベリーの販売もある。
そのほかにも神社境内には屋台やキッチンカー、本部テント内では、七夕とそうめんの日にちなんで奈良県三輪素麺の「恋愛成就そうめん」を販売。

盆踊りの後は、七夕の短冊に願いを託しながら天の川を渡ろう。最後は「慰霊線香花火」の揺らめく灯りのなかで名残りを惜しみながら、浅草の夏の夜をたっぷりと楽しみたい。


取材協力/日本の新しい習慣「夏詣」実行委員会
・夏詣公式サイト https://natsumoude.com
・浅草神社 夏詣公式サイト https://natsumoude.jp/
 


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