最近では結婚を決めても結婚式は挙げないという人も増えているが、それでもやはり、結婚式は人生の大きな節目の儀式。
現在の日本で行われている結婚式には、ホテル式場のチャペルやガーデン等でドレスを着て行う「洋婚」と、神社やお寺、神殿で着物を着て行う「和婚」がある。
いまは洋婚の方が多数派だが、白無垢や色打掛などの和装での挙式を望む人たちに根強い人気の、神社での結婚式。だが、選ばれてきた理由は和装への憧れ、それだけだろうか?
神社での結婚式をよりよいものにするために活動を続けている「神社挙式研究会」の代表で馬橋稲荷神社(東京・阿佐ヶ谷)の神職、本橋宣彦さんにお話を伺った。
神社でおまつりしている「神様」とは?
日本人はいにしえより、八百万(やおよろず)の神々を感じながら暮らしてきました。「八百万」というのは具体的な数ではなく、「とてもたくさん」という意味です。祖先もそうですし、山や川といった自然の中にも神様を感じてきました。天然・自然のお力、私たちが命長らえるために必要不可欠なあらゆるもの、そこに日本人は神様をみてきたのです。
神様とはなにかを知るために、「カミ(神)」という日本語を考えてみましょう。日本の言葉の本来の意味を知るには、漢字をちょっと脇に置いて、その言葉の「音」で考えることが大事です。「カミ」の「カ」は「陰、隠れる」の「カ」。「ミ」は「身や実」の「ミ」。つまり、「カミ(神)」は「隠れ身」という意味なのです。さらに言うと、「ミ」は魂のこと。話を聞いて「身になった」というのは、人の話をただ頭で理解するだけでなく、自分自身の魂に深く浸透した、という意味ですね。
各神社では、この八百万の神々の中から特定の神様をご祭神としておまつりしているわけですが、神社の日常や儀式では常に、見えないもの・もの言わないものが「居ますが如く」行います。
これはなにも神社に限ったことではなく、日本人が長きにわたって培ってきた文化で、その根底に「見えないもの・聞こえないものの大切な働きを意識する」ということが当たり前のようにあったのです。
結婚式という「儀式」を行うことの意味
結婚式というのは、七五三や入学式、卒業式といった人生の節目の「儀式」のひとつです。儀式の意味や役割を考えたことはあるでしょうか?
人生には立ち止まって「自分の心・魂がどのようになっているか」を顧みることが必要です。大事な節目の時に、自分が置かれている状況にふさわしい心に切り替える、つまり「魂づくり」。これが、儀式をすることの意味・役割です。
人は結婚することによって、「独身」から「夫婦」へと立場が変化します。
神前結婚式では、日本の神様の見守る前で、自分たちの魂を新しい立場にしっかりと立て、夫婦の見えない「気の綱(きづな)」を張るわけです。この「気の綱」もやはり、目には見えません。見えない綱を見つめるが如く、その声を聞くが如く、それを感じとることで、夫婦はうまくやっていかれるわけですね。
神社によってご祭神は異なりますが、結婚式の場では、どの神様も「夫婦を導く神様」となられます。
大事なことは、見えないけれど、そこにいらっしゃる神様に心を向けて式に臨むということ。神様はまるで「鏡」のように、参拝する人の魂を映し出し、それに見合ったお力を発揮されます。
夫婦となるふたりの縁が結ばれたことを感謝し、見えない「気の綱」を見つめて暮らしていく。
その強い決意を持った魂で儀式を行うならば、そうした新郎新婦の真心を神様が喜び、末永くふたりを見守ってくださるのです。
結婚式を挙げる神社はどう選べばいいか?
これは結婚式に限りませんが、まずは自分たちが暮らしてきた、これから暮らしていく地域の神社、という選択肢がひとつあります。
つまり日々見守っていただいている「氏神様」の神社で行う、というものです。
それとは別に、ふたりで実際にお参りして「この神社はご縁がある、感じ入るものがある」と思える神社もまたいいと思います。
どちらにしても「この神社、この神様の前で夫婦になりたい」と感じられるか。そこが大事ですね。
お話を伺った人:本橋 宣彦
神前結婚式の普及と活性化を目指す神職と企業関係者による「神社挙式研究会」代表。馬橋稲荷神社(東京・阿佐ヶ谷)禰宜
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