まったく個人的な思いなのだが、自分の結婚式には後悔が残る。
希望は、神社で式を挙げたい、既存の披露宴はしたくない、しかし祖母には喜んでもらいたいということだった。
お願いしたウエディング会社では期待以上の仕事をしてくださって、家族も喜んでくれた。しかし、私自身の満足度からいうと「披露宴」に関しては従来スタイルで押し切られてしまった感がある。
私の感じ方がおかしいのだろうか?その後ウエディング業界で働き、結婚雑誌をつくるようになってからも、疑問が消えることはなかった。

CRAZY WEDDING「#結婚式に自由を」広告キャンペーン

2018年11月22日「いい夫婦の日」、Twitter上でバズったハッシュタグ「#結婚式に自由を」。キャンペーンを仕掛けたのは、完全オーダーメイドのオリジナルウエディングをプロデュースする、CRAZY WEDDING
『変なしきたり多すぎ』『再婚だと挙げにくい』『スピーチは定型』『持ち込み料って何』『セレモニーが嫌だ』『ご祝儀は三万円』『二次会も高い』『そもそも大安ってなんだ』『どの式も流れが同じ』……。
その広告はたしかに過激だけど、でも「わかる!」と共感できる部分も多々あった。

そもそも今、皆がイメージするような「結婚式」の流れは、ここ30年ほどで出来たものだ。 お祝儀の相場はバブル期に浸透した目安金額だし、披露宴の流れも結婚式場ごとにマニュアル化されたものが用意され(それはそれで満足度が高い、時間内に収まるなどメリットも多い)、大安は日本ではなく中国起源の占いだし、「まず会場を決めよう」という結婚雑誌の指南は人気の会場や日取りに集中した過去の遺物ではないのか。

ずっと昔、日本では、自宅での結婚式「祝言」(しゅうげん)が行われていたという。
各家でごちそうを用意し客人をもてなす。終わりの時間は決めず夜通しというから、招く家族も大変だったことだろう。 やがて披露宴は公民館や料亭など外で行われるようになり、今のようなウエディング会場での結婚式が主流になっていった。ホテルや専門式場、レストラン、ゲストハウス。。。
でも、実際のところケーキカットがふたりの初めての共同作業でないし、花嫁の手紙も読んでも読まなくてもいい。日取りが仏滅でも、ふたりや家族がこだわらないなら別に問題ないし、できるのなら自宅でしたって本当はいいのでは?

ふりかえってみて、結婚式は、ふたりが今までの人生を振り返り、これからの未来を描くひとつの節目だと思う。
今までお世話になった人に感謝と、これからもお付き合いのお願いをするための場。呼ばれる側は、ふたりを祝うためにわざわざ足を運ぶ。その基本さえ外さなければ、もっと自由でもいいんじゃないのか。
そんなわけで、日本の結婚式は、転換期を迎えている。 私を含む多くの人が抱えていた違和感に、ウエディング業界のなかでも気づいてくれる人達がいたんだ、と感じた。

表参道という地名から着想を得たという玄関へのアプローチ、IWAIの参道

CRAZY WEDDINGが2019年2月にオープンした新施設「IWAI」は、およそウエデイングっぽさがない結婚式場だ。
1~2階はとてもシンプルで美術館や博物館のよう。チャペルでの挙式はゲストに誓う人前式が提案され、玄関アプローチから始まって至るところに、モダンな和のデザインが使われている。

ふたりの思い出の品が飾られたエントランス。奥のポストには、ゲスト一人ひとりに書いた手紙が用意されていた

挙式はゲストに見守られて誓う人前式だが、神前式のように両家が向かい合って座る

テーブルに装花はない。その代わりに季節ごとの花がゲストの目を楽しませ四季を伝える。

IWAIの3階・4階は高級マンションやリゾート別荘のような佇まい。ソファやテレビ、レコードプレーヤー、冷蔵庫、お風呂まであり、それらはすべて新郎新婦やゲストも自由に使ってOK。
かつて自宅で行われていた昔ながらの「祝言」を今の時代に行うとしたら、もしかしたら、こういうかたちになるのかもしれないと思った。

IWAIでは、無駄と思うことをとことん省き、「ゲストに居心地よく過ごしてもらう」そこだけを大切にしたという。

 

一見シンプルな建物も、オリジナルのドレスや料理にも、いかにも結婚式らしい豪華絢爛さはない。
しかし上質さやこだわりは感じられる。ふだんの自分たちらしく、ゲストとの距離が近い結婚式を叶えることはできそうだと思った。

多くの人にとっては、一生に一度の結婚式。どんなかたちにしたいか、希望はさまざまだろう。
結婚も、結婚式もしない自由だって今はある。それでも、こういう選択肢が私が結婚式をした頃にもあったら、そう思わずにはいられなかった。

IWAI OMOTESANDO
東京都渋谷区神宮前5-6-15
https://iwai-crazy.jp/


取材・文/まつもとりえこ(ハッケン!ジャパン編集部)

 


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