新型コロナの感染者数が急激に減り始めた2021年秋、ハッケン!ジャパン編集部に久々の新着和装スナップが届いた。どれも結婚式の花嫁写真で、撮影された時期はコロナ禍中だった春や秋、場所は飛騨高山だという。見ると、町並みロケーションの美しさはもちろん、都会的なセンスの良さも感じられる写真ばかり。
送ってくれたのはどんな人で、なぜ?  お話を聞いてみたくなり、連絡を取ってみた。それが、ウエディングプランナー阪田美穂さんとの出会いになった。

コロナ禍が故郷に帰るきっかけに


雄大な自然に囲まれ、昔ながらの古い家並みが続く飛騨高山。有名な観光地ではあるが、リゾート結婚式で人気という話はきいたことがない。一体どのような人たちが今、わざわざ飛騨高山を結婚式の場所に選んでいるのだろう?

「この近くには大学がなく、進学で県外に出ることが多いです。東京や名古屋など、出た先で結婚するお相手を見付けた方が地元で結婚式、というパターンがあります。友達も呼ぶ披露宴やパーティは今住んでいる都会で考えても、結婚式だけは地元・高山で、とお考えの方が多いですね」(阪田さん)

そう言う阪田さん自身が、東京からのUターンで飛騨高山に帰ってきた一人だ。実家である創業133年の呉服店「西さか田」の2階に、自身の小さな店を構える。

「地元の高校を卒業して東京の大学に進み、大手の結婚式プロデュース会社に就職しました。そこで5年働きましたが、もっと自分のペースでお客様に寄り添った結婚式の提案がしていきたいと思い、30歳の時、結婚を機にフリーランスになりました」

そこから10年。軌道に乗りかけたところにコロナ禍。動けない日々、自分のなかでも考え方が変わっていったという。

「都会的で最先端のファッショナブルなウエディングをつくることが目標だった時期もありました。しかし、こうなってみると、大事なのは全然そこじゃない。そう気づけたことが、地元に帰ろうと思うきっかけになりました」(阪田さん)

結婚式の在り方も、原点に戻る

阪田さんが運営する「BLUE BIRD DESIGN」のInstagramを見ると、東京よりもずっと保守的なはずの飛騨高山で、コロナ禍の時期にも結婚式は行われていたようだ。

「飛騨高山でも、一時期は結婚式をできない空気になりました。しないことを選ぶ人も多く、今回のことでさらに増えたでしょうが、そもそもなんのために結婚式をするのか。原点に返って、そのことを考えてみる機会でもありますね」

「みんながやらないから」でも、「みんなに人気だから」でもなく、自分たちが良いと思った場所で、できること・したいことだけする。
そうやって自分の頭で冷静に考えて、自分たちにとって意味のある結婚式の場所として飛騨高山を選んでもらえたことが嬉しい、と阪田さんは語る。

「私が主にお手伝いしている神社での結婚式について言うと、結婚式をする意味といえば、氏神様に新しい家族として暮らしていきますというご報告をすること。今までありがとうございました、これからもよろしくお願いしますとお伝えすること。その後に、自分たちがお世話になった方々に報告と感謝の気持ちを伝えるための披露宴。ここが結婚式の原点だと思うんです。私自身、コロナ禍の経験で改めて考えさせられました」(阪田さん)

新しい流れ、「旅婚」が始まっている

飛騨高山といえば、外国人観光客に大人気で訪日インバウンドで賑わっていたイメージが強い。これもコロナ禍以降、状況は一変した。

「外国人観光客、当分は難しいでしょうね。でも、新しい流れが来ている感じもあります。私の仕事、結婚式でキーワードと思うのが『旅婚』。以前からあったけれど、もっと一般的なものになってくるのではないかと。その先駆けが始まっている気がするんです」

問合せは Instagram経由で新潟や東京、海外からも。2021年秋には、飛騨高山が出会いの場だった北海道出身と岐阜出身のカップルの結婚式があったのだそう。

「ご両家の親族は初めて高山にいらっしゃったそうです。みんなでワイワイ泊まって、結婚式は神社で厳かに、あとは美味しいご飯を食べて、ゆっくり観光して帰るという3泊4日。今後こういう旅のスタイルが、家族の結婚式のひとつのかたちとして定着する手応えを感じました」(阪田さん)

この土地でしかできないこと」の重要性

今までも京都や伊勢など、観光地として有名な場所で旅する和の結婚式は多々あって、もちろんそれなりに人気だった。
しかし、本当に「その場所でする意味」をどこまで感じられていただろうか、と阪田さんは言う。

「結婚雑誌の広告を見ると、全国各地どこもみんな同じような会場で、同じような食事を食べ、同じような引き出物を持って帰る、そんなイメージ。私は、飛騨高山の結婚式を選んでくれた方々に、ここでしか絶対にあり得ない時間と空間を提供したい。ここでする結婚式に意味を感じてほしいと強く思います。そこにこだわることが、今すごく大切なことになっている気がして」(阪田さん)

「古い=ダサい」ではなかったという気づき

ブライダルという一つの新しい産業をつくり発展させるうえで、選びやすいパッケージをつくり最新のトレンドを追うことも必要だったはずだ。しかし、それが結婚式の本質ではないと気づいたことが、阪田さんに変化をもたらした。

「東京で働いていた頃は、『金屏風なんてダサいよね』って話をしていたんですよ(笑)。今は、金屏風めちゃくちゃカッコいいと思っている。私自身は実家が呉服屋を130年以上営んでいて、だからこそ着物はずっと好きだったし、私の中に根付いているものはあったはず。それでも当時は、良さに気付けなかった。やっぱり流されていたんですね」(阪田さん)

ときめかないものに人は呼べない

金屏風に罪はない。いまの時代に、なんの工夫もなく金屏風を前に撮られた写真がダサかっただけ。そう言うだけあって、確かに「BLUE BIRD DESIGN」で発信している宣材写真は、飛び抜けてビジュアルが良い。スタイリッシュで目を惹く。   

これは、花嫁着物のプロデューサーとして有名な安東夏子さんのおかげです。自分が店を構えるなら、若い子がこれを着たい!カワイイ、素敵!って思えるものを提供したくて。一緒にかなえてくれる人は、夏子さんしかいないと思って、こちらから『お願いします!』ってご依頼しました

見てダサいもの、ときめかないもので、人が来るわけがない。まず自分が本当に美しいと思える写真にしたい。こういうことが飛騨高山で本当にできるんだよ、という目標と自信をもって発信していきたいと思っています」(阪田さん)

歴史を刻んだ「古いもの」にしかない格好良さ

いまでは逆に、古いからこそカッコいい、そんな存在だってあると知った。

「私が大好きな飛騨の護国神社さんは、高山に現存する最古の結婚式場といわれるほどで、式次第も明治時代そのまま。それが本当にかっこいい! 巫女さんも入っていなくて、宮司さんともう一人の神職の方だけで全てをされるのですが、まさに背筋が伸びる、歴史の重みを感じられる結婚式になります」(阪田さん)

そんな素敵な神社であっても、時流に合った発信のノウハウがないと、地元ですら忘れられた存在になりかねない。
阪田さんが飛騨高山に戻ってきた当時、由緒ある「飛騨大神宮・護國神社」の結婚式は、予約がほとんど入っていない状況だったという。

「こちらの結婚式は素敵だから、ぜひ私と専属契約をしてくださいとお願いしました。今年はもう10件くらいの予約が入っています。きちんとPRさえすれば、多くの人に知ってもらえる、それなのに知られずに眠っていることって多いですよね。本気でやれば可能性は広がるというのを身をもって感じられた出来事でした」(阪田さん)

伝統文化をアップデートしよう

神社だけではなく、長い歴史がある着物も同じ。着てもらえなければ、衰退し消えていくしかない。かといって、格式重視で昔ながらの型を若い人に一方的に押し付けるばかりでは、なかなか受け入れてもらえないのも事実だ。

「花嫁着物はチャンスだと思うんです。これをきっかけに、着物の世界に踏み込む方もいるかもしれない。呉服屋の家に生まれた私は、着物に対して良い記憶を残していきたい。だからこそ、上質なものだけを提供したいです。質の良い着物でないと、苦しい暑い辛いっていう記憶にしかならず、二度と着ない、となっちゃいますよね」

着心地の良さはもちろん、コーディネートも着こなしも、髪型も。トータルバランスすべてが良くて、花嫁着物の経験を『めちゃくちゃ良い思い出だった!』というものにしていきたい、と阪田さんは意気込む。

2020年、誰も予想しなかった災禍を経て、阪田さんは大きく人生のかじを切った。
そのことは、「古くてダサい」と思っていた伝統文化と故郷の魅力を改めて発見することにつながった。

「周りを見回すと、今ちょうど私たちの年代が家業を継ぐタイミングなんですね。飛騨の人って、お祭りのときの結束感もそうですが、地元が好きで大事にしている人が本当に多い。そういう価値観やつながりを大事にしながら、これからも一緒にタッグを組んでやっていきたいと思っています」(阪田さん)

変わらない日本の原風景の中で、地元を愛する仲間たちと、自分らしく生きていける程度の繁栄を、自分たちの手によってつくり出したい。
そんな選択は、とても地に足が着いたサステナブルなものに思える。苦しいことだってまだ多そうなこれからの時代を生き抜いていく、ひとつのヒントといえるかもしれない。

「春になったら。私たちの地域の氏神様でもある日枝神社で、高山祭という大きなお祭りが行われるんです。それは、この地域の氏子の人たち、全員参加。学校も休みになって、子どもは笛や太鼓、獅子舞など、親たちもそれぞれに役割があります。そんなお祭りを大昔からずっと続けてきた高山の人たち、本当にすごいと思います」(阪田さん)

季節は巡り、また桜が咲く頃がやって来る。
地元が一丸となって盛り上げてきた飛騨高山祭も昨年は縮小を余儀なくされた。今年こそは盛大に行われて、あらたに飛騨高山の魅力と出会う旅人も大勢訪れることができますように。そう祈りながら、阪田さんは楽しみに春の訪れを待っている。
 

阪田美穂(さかたみほ)

1981年 岐阜県高山市 生まれ
2005年 白百合女子大学を卒業後、㈱テイクアンドギヴ・ニーズ入社
     東京都内のレストランウエディングを中心に、400組以上の結婚式に携わる
2010年 結婚を機に独立。フリーランスの立場で都内や海外でのウエディングをプロデュース
2021年 飛騨高山に家族と帰郷。結婚式プロデュース・花嫁着物専門店の運営を開始

BLUE BIRD DESIGN 公式サイト
https://bbd-inc.jp/

 


【おすすめ記事】

神職さんに教わる「神社で結婚式を挙げるということの意味」

コロナ禍の学生が新郎新婦とつくる「絆ウエディング」をプレゼント

interviewあの人の得体〜藤井友子(京友禅 染匠/株式会社彩琳 代表)