コロナ禍の2020年8月、東京港区白金台のプラチナ通り沿いに新たな施設がオープンした。試食や体験などのリアルイベントとオンラインの発信の両方に対応できる、ポップアップ型のショールーム「MuSuBu(ムスブ)」だ。運営は、近隣にあり名門結婚式場として知られる「八芳園」。新施設と、そこで毎週のように開催されているイベントについて、プランニングとプロデュースを担当として手掛けるプランナーの中根達也さん(株式会社八芳園コンテンツプロデュース事業部)にお話を伺った。

オンラインとリアルイベントの両方に対応可能、ポップアップ型ショールーム

――今回「MuSuBu」が始まったそもそものきっかけとは、何だったのでしょうか?

ご存知のとおり、八芳園は歴史のある結婚式場ですが、そればかりではなく企業イベントや一般の方もレストランとしてご利用いただき、たとえばクリスマス、お正月といった季節のイベントも盛んに行われています。さらに、八芳園の敷地内では実現できていない新しいイベントを打ち出していきたいという方向性は、以前からありました。
もともと飲食の分野にこだわりをもつ八芳園では、イベントに生産者さんにも来ていただくことが多かったのですが、感染拡大の状況下それも難しい。そこで、オンラインイベントに切り替えることを考えました。

――オンライン、いまや必須ですね。MuSuBuでは、どんなことがテーマにされているのでしょう?

まず、東京・全国と生産者さんのいる地域を結ぶ「ポップアップ型イベント」であること。そして先述のとおり、食を中心として人と人を結ぶコミュニティづくりをテーマとしました。感染防止を徹底した小規模のリアルイベントの開催と、来場ゲストがオンラインを通じて生産者さんと出会い、ダイレクトにやり取りができるようにしたい。そうした人と人を結ぶ交流拠点になることが目標です。
そもそも八芳園自体が、日本中の食と技、文化を学び、 東京と地方、地方と地方、日本中と世界中を結んでいきたい、そうした想いでのプロデュース活動に力を入れており、その実績や経験を活かす新事業でもありました。

香川・小豆島の醤油蔵と、福島の酒蔵・醤油蔵、地域と業態を超える横断プロジェクト

――12月5日・6日開催された「福島木桶イベント」を体験させていただきました。このイベントはどうして開催の運びになったのでしょう?

イベントの素材は何がいいかとネットで調べていて、醤油はどうだろうと。群馬県前橋市にある「職人醤油」さんが、全国各地のこだわって作られた醤油を取り扱っているので、サンプル醤油を送っていただいたんです。その中の1本が、香川県小豆島の「ヤマロク醤油」さんで、昔ながらの木桶によって仕込まれたものでした。私自身が木桶のことをよく知らなかったので、一体どういうことだろう?と、興味を惹かれました。
ヤマロク醤油さんは、なんと自分たちで木桶を作り「木桶職人復活プロジェクト」まで立ち上げているとのこと。これは面白いと思い、醤油をテーマにイベントを行うことになりました。

――どんなイベントにするのか、すぐに決まったのでしょうか?

「ヤマロク醤油」当主の山本康夫さんと、まずオンラインミーティングを行い、山本さんからイベントは年内に3回開催しようと提案がありました。
「えっ?年内?3回も?」と驚いたんですが、勢いに押されて1回目と2回目は山本さんおすすめの醤油で実施、3回目は当初、別内容を計画していました。
ところが山本さんから、東北の福島県で木桶を作る「福島木桶プロジェクト」が盛り上がっているから紹介したい、すでに展示用の大きな木桶も作り始めた、とのお話で。

――大変。すでに作られてしまっているとは。それは前に進むしかないですね!

そうなんですよ。人口の多い首都圏でのイベントを考えていて、会場が決まってないから何とかしてくれと(笑)。社内で相談したら、日本の伝統文化の継承は八芳園らしいと採算度外視でOKをもらえて、12月の初旬にMuSuBuで開催となったわけです。

――なるほど、そんな経緯があったのですね。イベントはどんな内容だったか、あらためて教えてください

木桶とはどんなものか知っていただくために、福島から実物を運んでもらいショールームの入り口に置きました。木桶なんて見たことがない方が多く、通りから見かけて何だろう?と足を止めて中に入って来られる方もいらっしゃいました。
また、人と人との出会いやつながりを伝えることをテーマにしていますので、物販ではなく体験で価値を知り商品を自然に手に取っていただくかたちにこだわりました。
本当ならば各生産者さんに来てもらうのがベストでしょうが、集まることは厳しい状況。そのためオンライン開催を同時に、画面上でLIVE配信を行い、来場者と生産者さんと相互に顔が見えるようにしたんです。気に入った商品はQRコードで各社ホームページから購入できるかたちにしました。

――生産者さんの顔が見えて話もできると、ずっと楽しいですね。体験は、具体的にどんなことをされたんですか?

福島の木桶醤油を3本セットで食べ比べができる寿司セットを会場内で販売しました。購入いただいた方には試食チケットをお渡しして、さらに「伊達鶏ふるまい煮しめ」や、デザートは3本の醤油を豆乳アイスクリームにかけて食べ比べも。料理はもちろん、八芳園MuSuBuのシェフが手がける出来立てです。
福島県・郡山の江戸中期から続く酒蔵「仁井田本家」さんにはわざわざ上京いただき、福島木桶仕込みの香り高い日本酒「にいだしぜんしゅ」試飲が大好評でした。

――醤油でアイスクリームの食べ比べって面白いですね。お客さんの反応はいかがでしたか?

私もアイスクリームに醤油をかけると美味しいなんて知らなかったですが、業界では定説だそうです。親御さんもお子さんも大喜び、「こんな食べ方があるなんて知らなかった」「たのしかった!」という声をいただきました。
1日50名も来場があればと思っていたんですが、結局2日間で合計300名近くの方にお越しいただき、たくさんお買い上げもいただきました。

――イベントにはどんな方がいらっしゃっていたんですか?

もともと食に関心の高い熱心な方が調べて参加されることはありましたが、近隣お散歩のお子さん連れの女性やご家族連れが多かったですね。イベントコンテンツによりご夫婦、ファミリーなど微妙に異なり、なかには何度もお越しになる方もいらっしゃいます。知らない同士が気づいたら会話していた、お子さん同士が仲良くなって遊んでいたなど、自然と新しいコミュニティができ始めているように感じます。

――イベントを重ねてみての手ごたえや、中根さんご自身に変化はありましたか?

白金台の街を歩くとイベントで顔見知りになった方と偶然お会いすることがあるんですが、顔を憶えられて「また行きますね!」と気軽に声をかけてくださいます。それは本当にうれしいことですし、これからも頑張ろう!と意欲がわきますね。

コロナ禍の2020年を超えて 名門式場「八芳園」が見据える新しい未来

――今回イベントでは、SNSのフォロワー数が急増したそうですね?

そうなんです。ネットワークをお持ちの方が「こんな面白いことをやっている」と発信してくださってフォロワー数が一気に増え、正直驚きました。
また近隣でも「あそこに何かできたみたい」とお友達を連れていらっしゃる方もいて、そのお友達がさらに他のお友達へ声をかけていただき、じわじわと広がっていったようです。これも新しい体験でした。

――今後はどんな展開をお考えなのでしょう?

まず木桶文化についてですが、同じ志を持つ酒蔵さん味噌蔵さんはもとより、存続が危ぶまれる木桶をつくる技術や職人さん自体が継承されるべき大切な日本の伝統文化だと思っています。そうした文化を各地の生産者さんと一緒に発掘、ここでないと見られない、体験できないイベントを通してMuSuBuから全国に発信していきたいですね。
ポップアップ、オンラインといっても、八芳園のこれまでの歴史や実績があったからできたこと。今回は体験いただいた方にも「これで商売になるんですか」と笑われてしまいましたが、でも、あのイベントがあったからよかったと、将来そう言われるようにしていきたいです。

お正月期間は八芳園の本館ロビーに、MuSubuでのイベントのときと同じ福島の大きな木桶が飾られます。ぜひ、ご注目いただきたいと思います。


取材協力/八芳園