寒くなってくると恋しい鍋物やおでんに合うお酒といえば、やっぱり日本酒。一方で最近は、高まる健康志向から低アル・ ノンアル飲料を選ぶ人が増えてきたのも確か。造り手さんは、どのように考えているのだろう?それを知る絶好の機会があり、ハッケン!ジャパンの酒&グルメ担当ライターでTVや書籍、ブログとメディア横断で活躍中の中沢文子さんと行ってきました。以下、中沢さんによる取材レポート。

変化するニーズと日本酒
世界的に低アルコールの酒類が注目されている。日本の酒(和酒)のうち、アルコール度数の高い焼酎は割って飲むのが普通だが、清酒については割らずにそのまま飲むものとされてきた。近年は低アルコール対応の商品も発売され、炭酸水やジュース、緑茶で割る等、新しい飲み方も提案されている。しかし広く根付いているとまでは言えない現状だと思う。
そんな2025年に「創醸」=酒造りを始めて400年を迎えた、神戸・灘の老舗酒蔵「櫻正宗」が、400年記念事業のひとつとして「低アルコール燗酒」を提案。燗酒自体は日本酒の伝統的な楽しみ方だが、低アルコールの清酒で、という点が新しい。
ちなみに、「清酒」はビール・ワイン等と並ぶ酒の種類を指す言葉で、米・米麹・水を主原料として発酵させて濾した醸造酒のこと。清酒のなかでも、日本国内で国産米を使って造られたものを「日本酒」と呼ぶ。


灘五郷の老舗酒蔵、「櫻正宗」
櫻正宗は、江戸初期にあたる寛永2年(1625)、伊丹・荒牧村にて創醸。「灘五郷」(なだごごう)の一角として、現在は神戸市東灘区の魚崎郷でお酒を造っている。
おいしい清酒を造る条件には米・水・技などが必須だが、日本一の酒どころとして知られる灘にはミネラル豊富な「宮水(みやみず)」と良質な酒造好適米の「山田錦」、寒造りに適した「六甲おろし」があり、「日本三大杜氏」のひとつ、「丹波杜氏」も多く働いている。さらに大消費地である江戸への海上輸送まで、好環境が揃う。
櫻正宗は、酒造りにおいて先駆的な役割を果たし、「一の文化」を築きあげてきた。
まず、「宮水」を発見したこと。江戸時代末期、櫻正宗の山邑太左衛門は場所によって造る酒の味が変わることに気づき、酒造りに適した水を特定。宮水は、現在も灘の酒造りを支える水として受け継がれている。
酒銘や社名の「正宗」は全国に数多いが、その元祖は櫻正宗。由来は、六代目当主が仏教の経典である「臨済正宗」から「正宗(セイシュウ)」の響きに着目、酒の名前として採用したことが始まりだという。
また、日本酒のアルコール分と香りの素として欠かせない酵母においても、櫻正宗は「協会1号酵母」発祥の酒蔵。明治政府によって官立醸造試験所が設立され、安全な醸造と酒質の向上のために、全国各地から優良な酵母が集められた。その中で、櫻正宗の酵母が「協会1号」に選ばれ、全国に頒布された歴史をもつ。
このように櫻正宗は、長い歴史のなかで新たな挑戦を重ねて、日本酒醸造の文化を守り続けてきた酒蔵であることがわかる。


櫻正宗400年めの挑戦、飲み方提案
今回の新たな提案で注目したいのは、日本初となる低アルコール燗酒の新しい飲み方、「まろや燗」の開発(度数5~10%の低アルコール、通常の日本酒は度数15%)。
常温や冷やして飲める低アルコールの商品は出ているが、燗酒にすると味のバランスが悪くなり、おいしくなかった。そこで櫻正宗では、温めて美味しく飲める「低アルコール燗酒」を考案。味にバラエティをもたせ、誰もが気軽に飲めるように創意工夫したという。
日本酒の伝統的な飲み方である熱燗は、身体が温まるし、料理との相性も良く、酒のまろやかな味わいや香りが楽しめる。また、ゆっくり飲むことで飲みすぎも防げて二日酔いをしにくくする効果も期待できるともいわれている。
今回新たに考案された「まろや燗」のやり方は、器に「アミノ酸」「塩分」「有機酸」の素材、具体的には梅干しや塩昆布、かつお節、とろろ昆布などを入れて、通常の燗酒よりも高い約60~70℃に温めた低アルコールの清酒を注ぐ、それだけ。


会場で試飲、自宅でも実践
11月20日に都内赤坂で行われた記者発表会では、梅干し、塩昆布、かつお節、とろろ昆布、4種類の「まろや燗」を実際に試飲させてもらった。
清酒と素材が調和することで特有の香りも低減され、まるでスープのような味わいもあり、たしかに飲みやすい。日本酒好きの私にも本当においしかった。日本酒や燗酒が苦手な人でも、これなら飲めそうと思った。
日本酒を温めて素材を加えるだけなら、自宅の電子レンジでも簡単に作れる。飲んべえの私は、自宅に戻って早速試してみた。低アルコールではないが度数15%の日本酒に塩昆布、かつお節を加えて、日本酒に加えた素材を食べつつ飲んでみると、おいしすぎる!家飲みの楽しみが増えた。いろいろ試して自分好みのおいしさを探すのも楽しそうだ。
歴史と伝統がある日本酒の場合、こう飲む、そういう飲み方はよくない等のイメージが強いかもしれない。そうした概念や抵抗感を、老舗の造り手自らが壊す「まろや燗」、かなりおすすめ。「低アルの日本酒?」「燗酒はちょっと」など食わず嫌いで試さないのは損!飲食店も取り入れてもらって、日本酒好きを増やしてほしい!!皆さんも、ぜひお試しを。

Information ①
創醸400年記念酒 400本限定発売

創醸400年記念酒「秘醸」(ひじょう)を11月27日から数量限定(400本)で販売開始。特別な製法で米と水から造った醸造酒をオーク樽などで19年熟成させた新感覚の和酒で、オーク樽のスモーキーな香りが漂いながら、熟成されたアルコールのまろやかさに米由来のかすかな旨味と甘みを感じる仕上がりとなっている。
櫻正宗 創醸400年 記念酒「秘醸」
https://item.rakuten.co.jp/sakuraen1625/400/
Information ②
日本酒の楽しみ方を広める特設サイト

創醸400年を記念して特設サイト「ハレ飲み部」もオープン。人々の “ハレの日”に寄り添ってきた櫻正宗が、人生の節目や日常のちょっと特別な時間を日本酒とともに過ごす楽しみ方をWEBで提案。気分やシーンに合わせて自由に日本酒を選べるガイドコンテンツや、日本酒に親しみのない人も楽しめる診断コンテンツなどを展開している。
「ハレ飲み部」特設サイト
https://sakuramasamune-400th.com/
<取材協力>
櫻正宗 株式会社
https://www.sakuramasamune.co.jp/
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