こんにちは。写真家の中島光行です。
京都で生まれ、京都に育ち、当たり前のように身近にある京都の力にふれながら、何度も足を運ぶ中で見えてくる京都の魅力を伝えるプロジェクト「三度目の京都」で撮影を担当しています。
どんな状況にあっても京都の自然はその佇まいを変えることなく、我々の前にただ在る。時節柄、それこそが奇跡的だと痛感させられる毎日です。

前回、早春の「天神さん」(北野天満宮)に続き、4回目となる今回も、いまの初夏の時期に見頃を迎える美をご紹介します。
例年4月下旬から芽吹く新緑が清々しい空間を作り出す、大原の「古知谷阿弥陀寺」です。

人里離れた山の中にある古知谷阿弥陀寺は、如法念仏の道場。1609年に創建され、即身仏(ミイラ仏)が安置されていることでも知られます。
樹齢800年を超える天然記念物「古知谷楓」をはじめ全山を老樹が覆い、秋になると数百本の楓が美しく色づくため、江戸時代から紅葉の名所としても有名です。

このお寺の最大の魅力は参道にあります。古くから皇族にゆかりがあり、宮さんが駕籠で登ったこともあると言われる参道は、山門から本堂まで20分ほどの道のり。
車も通行可能ですが、あえて歩いて登ってほしい場所です。木漏れ日を浴びつつ、ゆっくりと。それこそがここを訪れる醍醐味だと言えるでしょう。

まだかな?まだかな?と思いながら歩いていると、石垣の上に立つ小さなお堂が見えてきます。そこを過ぎれば、もう本堂。境内には、静けさが充ちています。

写真は7,8年前に撮影したものですが、いまも全く変わっていません。そのゆるやかな時間の流れも古刹の魅力。

本堂から境内の景色を眺めながら、山の匂い、通り過ぎてゆく風を感じてください。聴こえてくるのは鳥のさえずりと、木々のざわめき。そこには、味わい深い非日常があります。

新緑を見るベストシーズンは、ゴールデンウィークあたりから梅雨前まで。色で言えば、若葉の薄い緑が少しずつ色濃くなっていく頃。葉っぱのレイヤーが美しく、濃淡さまざまなグラデーションを愉しむには最適の時季です。
梅雨を迎えて緑に深みが増してくると、山はすっかり夏色になってしまいます。そうすると、あとは秋の紅葉までほぼ変化がありません。
ですから本当は、一日一日と色が変わっていくいまの季節に訪れてほしいですね。

爽やかな風景を愛でながら、紅く色づいていく様に想いを馳せ、今度はその紅葉を見に訪れてみる。
思い浮かべた通りか、想像以上か。自分の中で答え合わせをしてみるのも、面白い京都の楽しみ方のひとつではないでしょうか。


古知谷阿弥陀寺(こちだに あみだじ)

TEL 075-744-2048

京都市左京区大原古知平町83

拝観時間 9:00~16:00(1~2月は休み)

拝観料 500円


 

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