撮影/新井勇祐 ※掲載写真は全て2019年5月13日~14日公演より
奉納舞台「一粒萬倍-A SEED-」というパフォーマンスプロジェクトをご存知でしょうか。ふだんは能楽や狂言が演じられるGINZA SIX 観世能楽堂能舞台が一変。能楽や邦楽、日本舞踊といった日本の伝統芸能と西洋の音楽やダンスが融合、「日本神話」を表現するパフォーマンスが繰り広げられました。
作・演出を手掛けるのは東京とLAを拠点にさまざまな企画・演出をしてきた松浦靖さん。トヨタ、ダンロップ、イワタヤ、日本コカコーラなどのTVCF作品の数々を手掛け、IBA、テリー賞も受賞されています。
海外に出た松浦さんが「いつか自分なりの日本を表現したい」と考えたことからスタートしたのがこの舞台「一粒萬倍-A SEED-」でした。
日本とはなにか、その源流は、と探る中で松浦さんが行き着いたのが日本の神話。日本で昔から受け継がれてきた神話(古事記・日本書紀)や神様に対する感覚に『日本を知る上で重要な、様々なメッセージが含まれている』と感じたそうです。
例えば、日本には八百万の神々という言葉があります。木の枝、石ころ、お箸に至るまであらゆるものに神様が存在しているという考え方には私たち祖先が自然を始め、あらゆるものに「感謝」しながら生きていたことがうかがわれます。
舞台「一粒萬倍-A SEED-」のストーリーは、この世界の始まりにアメノミナカヌシという神様が現れるところから始まります(この舞台では宇宙の始まり、ビッグ・バンとして捉えています)。そして16番目と17番目に生まれた夫婦神のイザナギとイザナミがオノゴロ嶋に降り立ち国生みをします。火の神を生んだ時に妻のイザナミは火傷で死んでしまいます。黄泉の国に妻を探してイザナギはやってきますが、妻との約束を破ったため、怒ったイザナミと醜女、そして黄泉の軍団に追いかけられます。生の世界に逃げ帰ったイザナギは禊ぎをすると、そこから、アマテラス、ツクヨミ、スサノオが生まれています。
第二幕では、天上界で暴れるスサノオを嘆き岩戸の中に隠れた天照大御神(=太陽神)を呼び戻すために、アマノウズメノミコトが舞を舞います。岩戸隠れの罰として高天原を追放されたスサノオは、食の神様オオケツヒメのところに立ち寄ります。そこでご馳走を食べるのですが、そのご馳走の秘密を知ったスサノオは、オオケツヒメを殺してしまいます。そのオオケツヒメの身体から稲穂(五穀の種)が誕生し、私たち人間に五穀豊穣の恵みがもたらされるまでが描かれています。
能、狂言、日舞、生け花、和楽器(邦楽囃子、和太鼓、箏)といった日本の伝統芸能。現代舞踊(ボールルームダンス)、バイオリン・チェロといった西洋の音楽やダンス。
古典と現代、東洋と西洋、静と動、いろいろな要素がミックスした舞台は一言で表すなら「グルーヴィーな能楽!」という感じでしょうか。不思議と違和感がありません。
能楽堂での舞台と言うとなんだか眠くなってしまうイメージがあったのですが(すみません)、この舞台は終始、次はなにが起こるのだろうと期待させられます。
イザナギ・イザナミの夫婦神を演じるのは日本舞踊の藤間貴彦さん・藤間爽子さん。事前に行われたプレス発表で「兄妹で夫婦を演じるは照れくさいものがある」と話していましたが、舞台上では黄泉の国での出来事も含め見事に夫婦を演じていらっしゃいました。
暴れ者のスサノオを激しく演じる金光進陪さんのダンスも、とにかくかっこいい!さらに能面を付けた能楽師の佇まいは何とも言えない不思議な存在感で、静かながらも迫力がありました。
知っているようで知らない、でも知っておきたい日本の神話や伝統文化。一流の演者が揃うこの舞台は、日本文化の入門機会としてとても貴重なものだと思います。今後、各所で上演することを目標に進んでいるそうなので、機会があればぜひチェックしてみてください。
一粒萬倍 公式サイト http://www.ichiryumanbai.com/
【作・演出】 松浦靖
【出演】
- 能楽……観世流シテ方 八田達弥(重要無形文化財(総合指定)保持者)、観世流シテ方 武田文志、和泉流狂言方 高澤祐介(重要無形文化財(総合指定)保持者)
- 日本舞踊……藤間貴彦/藤間爽子/花柳茂義実/鈴木ちなみ/西川綾乃/玉利麻衣子/木倉直美
- ボールルームダンサー……金光進陪(全日本ラテンアメリカンチャンピオン)/松本希望/中村枝里香/曽又奈々/肥後芳美
- 江戸太神楽・獅子舞……仙若/鈴仙
- 花……相澤紀子
【演奏】
- 小鼓……望月左武郎
- 和太鼓……石塚由有、大川真史、鳥山恋音(石塚由有 太鼓プロジェクト indra-因陀羅-)
- 大皷……重草由美子
- 能管・笛……鳳聲晴久
- 尺八……原郷界山/櫻井咲山
- 箏……日吉章吾
- バイオリン……内藤歌子
- チェロ……谷口賢記
【作曲】 石塚由有、織川ヒロタカ
取材・文/まつもとりえこ(ハッケン!ジャパン編集部)