長い歴史と文化をもつ京都ならではの「天皇さんはちょっとお江戸に行ったはるだけ」、そんな京都人の矜持もどこ吹く風で、昨今は京都⇔東京の二拠点生活で活躍する人も随分と増えつつある。
無理なく、愉しく。メリットの大きいデュアルライフを送る達人たちに、それぞれの違いと良さについて聞いてみるインタビュー企画あのひとの得体」第1回は、木本武宏さん! 
インタビューと原稿は、木本さんがMCを務める京都のTV番組でグルメを中心としたコメンターとして共演中の、ライター椿屋さん。

※取材撮影は2020年3月、京都市内で実施。タイトルの「得体」とは、本当のこと、正体。気になる人にどうしてるか?なぜ?のお話を聞きに行くインタビュー企画です(編集部)
 

京都に「ご縁」を感じるわけ

―― メインMCを務める番組、KBS京都での「週末ライブ キモイリ!」が始まって丸一年。東京と京都を行ったり来たりする生活はどうですか?

木本 もう、さすがに慣れましたね。生放送の番組がひとつあると、それが中心になって一週間というタイムスケジュールが身体の中に入ってくるんで、なんか「生活の軸」になってますよね。金曜日の夜に東京で仕事が終わったら新幹線に乗って、京都に着いたら烏丸通をずーっと通ってきてホテルに入る……それが日常の光景で、「はい、一週間経ちました」ってなる。

―― なるほど。ところで、京都には強い思い入れがあると聞いたのですが。

木本 20歳のときに養成所入って、まあ、これはお笑い芸人誰しもに言えることなんですが、自信あるから(養成所入ったら)すぐ売れると思ってて(苦笑)。もちろん、そんなわけにはいかない。やることといったらネタ見せ、ダメ出し。帰って、また一週間後にネタを見せる、の繰り返し。「え、これだけ?」って思うわけ。

―― 思ってたんとちゃう!(笑)

木本 あかんあかん、これじゃあ全然養成されへんやないか、と。これは自分らで動かなあかんと思ってね。せっかく松竹芸能入れて、すごい先輩がたくさんいてはるんやから、とりあえず会いに行きたい!自分らの存在を知ってほしい!と。養成所生がそんなんするなんて、いまでも絶対ありえへんことなんやけど、素人のイタい感覚というか……勢いが残ってたから(笑)。新聞のラテ欄見たら、森脇健児さんが出てる「青春ベジタブル」のところに「生」って書いてあって、「生放送なんやったら、この時間にKBS京都へ行ったら絶対に森脇さんがいてはんねや!」と思って、相方を誘って一緒にKBS京都まで来て。

―― アポなしで。

木本 アポなしで(笑)。当時、KBS京都って関西の放送局の中でも唯一(?)どうぞどうぞって入れてくれたところで、「松竹芸能の養成所の木本です。よろしくお願いします~」って言ったら、「はいは~い」みたいな(笑)。それで侵入成功よね。エレベーターで上がったら、すぐそこに(森脇さんが)いてはって、挨拶したら、「なんやお前ら!」って。

―― そりゃあ、言われますよね(笑)

木本 「すみません、見学しに来ました!」って頭下げて、言われてもないのに森脇さんの目の前でネタやって、「まだまだこれからやな」なんて言われながら。でもいま考えたら、自分もそうやけど、例えば、養成所生が自分のやってる番組にいきなり来たら、かわいいしかないもんね。「おお!来たか」って思うやん。ああ、そんな気持ちやったんかなぁ、森脇さんも。それで、中で見ろって言ってもらえてスタジオのベンチで見学してたら、初めて顔合わせたばっかりのその日に、森脇さんが「今日実は、松竹の養成所の子が来てんねん」ってマイクの前に座らせてくれて。

―― すごいチャンスですね。

木本 挨拶して、しゃべって。もちろん、ウケるわけもなく。なんか言おうとするんやけど、全然ダメで。そしたら終わってから、森脇さんが「お前ら、ああいうときはな……」って厳しいけど実践的なアドバイスくれるし、作家さんからもアドバイスもらって。これって、ただ養成所に通ってるだけじゃ得られない価値があるじゃないですか。こういうことや!と思って、そこからもう勝手に森脇さんの鞄持ちを始めてね。毎週見学して、そのうちレギュラーにしてもらえるようになって、ずるずるずるずるっとそこからKBS京都のラジオに出るようになったんです。そしたら、テレビからもお声がかかって、数年後には「TKOのおきて」という冠番組を帯でやらせてもらうようになって……。あのラジオの日から、気がついたらほぼ京都っていう生活やったんですよ。だから、本当にKBS京都に若手のときに育てていただいたという感覚が強い。

―― そこからしばらく出演しない年月が流れて……

木本 20年くらいかな? それで今回、こうやって50周年の節目に、来年50歳を迎える自分が、木本の「キモ」を入れていただいた「キモイリ!」という生放送の番組に、もう一回呼んでもらえるって……もう、ひとりでドラマチックな気持ちになってて。これぞ!縁(えにし)と、ただただ舞い上がりました。

―― ご縁を感じずにはいられないと思います。

「きもっちゃん」と呼ばれたい!

木本 ただね、土曜日に生放送で東京にいられないっていうのは、ぶっちゃけた話……。

―― スケジュール的には厳しい、のではないかと。

木本 そう。定期的に出てた「タモリ倶楽部」とかダウンタウンさんの番組とか、大きい番組の収録はけっこう土曜日が多いから。これが全部出られない。出られないけどいいか、という話があって、正直、タレントなんでね、天秤にかけるじゃないですか。でも、圧倒的に、KBS京都でやらせてもらうことがありがたくて。

―― 全く迷わなかったんですか?

木本 10秒もなかったかな。(ほかの番組に出られへんとしても)いや、やる!やりたい!って答えが出るまで。それくらい、京都にというよりも、KBS京都さんにご縁を感じてたから。そこからじわじわ広がって、いまでは京都にも思い入れが出てきました。

―― 昔、通ってた頃と比べてどうですか。

木本 当時は、若造の目で見てただけやったから、月日が経ってオジサンの目で見ると全然違ってて。

―― どのへんが違ってました?

木本 京都ってオシャレやな~、かわいい子多いな~ってくらいのかんじで表面的なことしか見えてなかったのが、いまは、オシャレなところは二の次三の次で、「ほんもの」が多くて、「ほんもの」の塊で出来てるまちやからこそ、番組を見てもらいたい人たちに対しても、ごまかしがきかへんなっていう気持ちにさせられますね。

―― 確かに。ほかの地域に比べたら、見透かされてる感と言いますか、ハッタリきかない感があるかもしれません。

木本 ほんまに。

―― 木本さんにとって、KBS京都を訪れた「あの日」がターニングポイントになった、ということですよね。

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木本 漠然とず~っと思ってたことがあってね。この歳になって最近、自分の中で言葉に出来るようになったんですけど。願望をカタチにする人と、願望がただの夢でふわ~っと消えていってしまう人の違いって、スポーツで喩えると、後者の方は野球とかサッカーをやる感覚なんですよ。1点でも多く取れたらいい、一所懸命がんばってどうにかしてボールを少しでも前へ進めるんだ。でも、願望をカタチにする人って、ゴルフの考え方をしてるんですよね。カップをここって決めて、逆算して進める。自分は芸人になりたい、芸人になって売れたい、その「芸人」とか「売れたい」というカップに向かってどうすればいいか考えるから、自ずとゴールへと向かうことになる。後輩たちにもよく言うんですけど、次のホールは何か、どうやって攻略すべきか、を考えなあかんと思ってるんです。まぁ、偉そうに言ってるけど、ゴルフはやったことないんやけどね(笑)

50歳を目前にして、いま自分の中で決めてるカップ(=ゴール)は、まちを歩いているときに、同年代やそれより年配の人たちから「きもっちゃん」って呼ばれる人になりたいってこと。「木本さん」じゃなくて。「きもっちゃん!」って気軽に声をかけられるお馴染みの存在になりたいんですよ。

―― きもっちゃん!

木本 これって、すっごい難しい。迎合したら「木本くん」になってしまうし。

―― そう考えたら、還暦を超えて、どこに行っても「マチャミ~」って久本さんが呼ばれるのは、すごいことですよね。

木本 あれは、ほんまにすごいこと!あの域にたどり着けてこそ感じる「しあわせ」ってあるんちゃうかな、と思ってて。そんな自分を、ここ京都でつくりたいなぁって考えてるんですよね。

―― 東京と京都とでは、「きもっちゃん」をつくる上で何か違いがありますか?

木本 東京ではずっとね、「関西から来た木本です。お邪魔してま~す」っていう感覚でいつもいるんです。

―― え、そうなんですか。でももう東京の方が長いですよね?

木本 長いけど、やっぱり「よそから来てます感」があるから……いくらスタッフと馴染んで、ホームみたいな場所になっても、本番に入ったら「お邪魔させてもらってます」っていうスタンスがなかなか消えない。これはもう、ずっと消えへんのやろな~って思う。

―― それじゃあ、大阪ではどうですか?

木本 自分が生まれ育った大阪という場所は、どんどん次に繋いでいかないとダメだという想いが、東京と同じようにある。うん……東京の方がそれはより強いかな? 東京の方が、明日に繋がるようにがんばらないと、って思ってるなぁ。僕らは自分がブランドもんにならんとあかんから、東京はそのブランドの価値を上げにいくところで、いまの状況を確認するのが大阪。これくらいのブランドになったから、こんな番組を持たせてあげるよってかんじで、現状の位置を把握する物差しとして大阪は分かりやすい。「そうか、おれ今まだこんなかんじか、よしもっとがんばらなあかん!」って自分を再確認する場所でもあるね。

インタビュー後編につづく)


取材・文/椿屋 

写真/松村シナ(https://torico-camera.com/


木本武宏(きもと・たけひろ)

1971年5月6日、大阪生まれ。A型。NHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」の田中雄太郎(信楽太郎)役がまだ記憶に新しい。高校時代からの付き合いである妻と愛犬と東京暮らし。2019年4月よりKBS京都で放送中の「週末ライブ キモイリ!」でメインMCを務めることになり、週末は京都で過ごす日々が始まった 
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