歴史ある京都と首都東京の二拠点で活躍する人も増えつつある昨今。無理なく、愉しく。メリットの大きい「デュアルライフ」を送る達人たちに、それぞれの違いと良さについて聞いてみるインタビュー企画、「あのひとの得体」。
第1回は、東京から京都に毎週末通う生活が2年目に入った木本武宏さん、
その後編。インタビュアーはKBS京都の番組でコメンテーター出演中のライター椿屋さん。
(インタビュー前編は、こちらより)
 

「整理」こそがリフレッシュ

―― 東京での暮らしの中に、毎週末すごす「京都」が入ってきて、お仕事以外の面でも意識が変わってきたことってありますか?

木本 徐々に。京都に来たらここに食べに行くってお店が増えてきたかな。ひとつ、ふたつ、みっつ、くらい(笑)

―― 馴染みのお店があると違いますよね。

木本 そう、全然違う。そこからの拡がり方というか、まちに溶け込むのがスピーディーになるから。一年前に久しぶりに京都に来て、「お邪魔させてもらいま~す」ってところから再スタートしたけど、仲のいい飲食店が出来てきて、少しずつ親しみが増してきてますね。「うちに来てくれてるきもっちゃん、いま京都でがんばってるから皆よろしくね」みたいな距離感が、心地いい。一度ハマると家族みたいな空気をつくってくれるのが京都っぽくて。

「キモイリ!」が始まって京都に通い出した頃は、「やっぱり京都って恰好いいまちやな~」って「まち」にハマって。歴史も好きやしね。ここに住んでる自分になりたい、と思うようになって。そこから一年経ってね、次は京都の「ひと」にハマり出してる。そうなったら、京都に来る愉しみが雲泥の差なんですよね。

―― あのひとに会いたい、とか、そこで出会うひとが面白い、とか。

木本 そうそう。そして、出会った人たちがまた「キモイリ!」見てくれたりして。そしたら、そういう人たちが「おもろかったで!」って言ってくれるような番組にしようって想いでカメラの前に立てるし。カメラの向こうに「ひと」の顔が見えるって大事なことやなって、改めて感じさせてくれるのがありがたいです。

――お仕事柄、移動はつきものだと思いますが、京都に入るときのスイッチはありますか?

木本 う~ん……そうやねぇ。大阪の仕事って朝早く行くことが多いから、新幹線の中では大抵寝てるんですよ。でも金曜の夜に京都に向かうときって、仕事が終わって新幹線に飛び乗るから、寝ない。

―― あ、寝ないんですね。

木本 うん。そんな時間に寝たら夜寝られへんなるから、オジサンは(笑)

―― コントロールしないと(笑)

木本 ほんまそれ(笑)。毎回だいたい同じ時間帯の新幹線に乗るから、「はい、一週間経ちました」って思うことで、その一週間を振り返るいい時間というか機会になってるかな。
東京や大阪で生放送の番組やってたこともあるけど、それが仕事の軸にはなっても、改めて一週間を振り返るタイミングって実はなくて、家で考えるわけでもないし。移動中、先週のオープニングは何しゃべったっけ、放送後にどこ行ったっけ、翌日の日曜日は何をして、月曜日のあの番組はうまいこといったな、火水木金……っていうふうに順を追って一週間を思い出しますね。それがたぶん、自分の中でのリフレッシュになってる。

―― リフレッシュですか。

木本 自分の場合、リフレッシュって「整理」。リセットとか気分転換とか、そういうことじゃなくて。リフレッシュって、ふわ~っと気持ちよくなっていくようなイメージがあるけど、気晴らしとか? でもそれにはあまり興味がなくて、頭の中で散らかってるいろんなことを整理できたときがめっちゃ気持ちいい。

―― ストンと落とし込めたらスッキリする?

木本 うん、落とし込んだあたりでだいたい名古屋。そこから30分くらいで京都に着くから、その間はもうぼ~っとしてる。そんなかんじ。

―― けっこうルーティンですね。移動が週末だっていうのも大きいかもしれませんね。

木本 そうやね。それがちょうどよく、区切りになってる。金曜の夜の新幹線って独特の空気感あるから。

歴史大好き木本さん。「ここって蛤御門とは違うよね?」と言いながら、御苑への入口で観察しきり。歴史的名所が目の前にあるのもKBS京都の魅力

目指すは「荷物」の軽い60代

―― 番組「キモイリ」2年目に突入しましたが、この1年どうありたい、この先どうなりたい、といった理想があれば聞かせてください。

木本 まさに!50を目前に、いまめちゃくちゃそういうこと考えてる時期。中でも、「しあわせって何?」ってめっちゃ思うんですよ。

―― 哲学的な普遍かつ壮大なテーマですね!

木本 20代30代の頃って、この仕事で売れたい、忙しくなりたい、皆に自分のこと知ってもらいたい……とにかく毎日スケジュールが埋まっていく過程で、そういう欲が付随してくるわけです。「売れたい」と思って、がんばってること自体はしあわせやった。

―― それは芸人さんに限らず、ある程度は誰でも持ってる欲かと。

木本 そう。もっと売れたい、もっと上のステージに行きたい、もっと自分のこと評価されたいって思ってきたけど、それが年齢とともに、なのか、キャリアなのか、もっと言えばそういう性格やったのか……分からないですけど、さすがにもうそろそろ「売れたい」とかじゃないなって。最低でも「売れた」上で何がしたいか、が肝心。

―― ただ「売れる」だけじゃない、その一歩先。

木本 何がしたいんだオレは、と考えるようになってきて……。何をしてるときがしあわせで、何が愉しいんだ、ということを整理しないといけないなと思う中で、「50歳になったら、ほんまに自分が愉しい!って思うことを120%で関われるような仕事だけで生きていきたい」という理想が生まれるわけですよ。これ単純に、それだけでメシ喰っていこうと思ったら、いまやってる仕事量よりも仕事は減る。それが出来る人っていうのは、1本1本の単価が高いよね。でも、自分はそうではないし、時代的にも単価が上がりにくいことを踏まえて、何がネックなんやろと突き詰めていったら、ふと「あ、そうか。めっちゃお金欲しいと思いすぎてるんや」って気がついた。

―― そこに行きつきましたか! 正直、わたしはまだお金欲しいです(笑)

木本 そりゃ、ぼくも最低限のお金は欲しいけど(笑)!  ただ、タレントや芸人を目指す人間が漠然と思う「億万長者になりたい」みたいなのは違うな、と。自分の中でやりたいことを整理したら、「だいたいこれくらいでいいやん」ってなって、「これくらいでええんやったら、お金めっちゃ稼ぎたい稼ぎたいって思わんでええやん」って、気がラクになった。そしたら、いままで収入っていう面で頭の中が支配されてたんやなってことに気づいたんですよ。

―― それは何故ですか? ステータスによる安心ですか、それとも……

木本 物欲が、落ち着いた。

―― ほお。それはだいたい手に入れたってことですか?

木本 だいたい手に入れてない(笑) 諦めたものもいっぱいあるし。
諦めたって言ったらネガティブに聞こえるかもしれへんけど、要は整理したというか。

―― 執着しなくなった?

木本 そう。別にいらんやんって。それこそ、代官山に住んでる自分になりたかったけど、別に代官山でなくてええやん、いまのマンションでええやん。それより、いまの家の中をもっと充実させたらええやんっていう、やっといまになって、そんな当たり前のところに行きつけたかんじ。
向上心だけで進んできたからかなり欲が多いタイプやったけど、だいぶ余計な荷物を降ろせたかなって。


―― そんな木本さんの120%愉しめる仕事の要素って何ですか?

木本 それは、自分の興味あることをしゃべれてるかどうか。もう、ほんまそれだけ。だからね、クイズに答えてても愉しいわけじゃない。なら、全国ネットのクイズ番組に出てるのはなんで?って訊かれたら、知名度を上げるためですよね。そこにはもちろん野心もある。

―― でも、その知名度が上がることによって、自分が好きなことをしゃべれる番組のオファーが来る。

木本 そう。だからこそこの番組は出とかなあかん、っていうのはある。でも、ぶっちゃけそれすらも最近薄れてきてて(笑)。これもあれもそれも出とかなあかんやんっていう焦りがなくなって、その分、朝ドラに挑戦する勇気も出てきたり。出演したらいろいろ勉強になって、やってよかったやんと思える。こういうこと出来たんやっていう自分の中での新しい気づきがあったり。とくにこないだの朝ドラはいろいろ悩みながらやった分、そういう気づきが得られた貴重な経験になりました。

―― 抽斗(ひきだし)だったり幅だったり、自身のポテンシャルを拡げることができる役に出合えるってすてきなことですね。

木本 それによって、またやりたいことも増えたし。ぼくの中でね、昔から「キルクルの法則」って勝手にひとりで言うてるんやけど

―― なんの呪文ですか(笑)

木本 何かを切ったら何かが来るんですよ。

―― あー!分かります。その法則、めっちゃあります!!

木本 でしょ。ぼくらの仕事ってそれの繰り返しで、だから切れてしまうことが怖くもなく、苦手なことを「芸人として、これ出来とかなあかんのんちゃうの」っていう錯覚のもと、無理してずるずるやってる中で、思い切って一切合切全部やめたら新しい何かが入ってきたり。

―― 潔く手放す勇気、大事ですよね。「キルクルの法則」、ハッシュタグで広めたいです(笑)

木本 基本、闘い癖がついてて、見栄とか欲望とか目立ちたいとか、そういう言葉に属する感情に支配されて若い頃からやってきたから、島のロケなんかに行くと、シャツ一枚に短パンと草履だけでオジサンがだら~としながら酒呑んで、友だちとしゃべって、ほなまたな~って帰っていくのが一番しあわせそうに見える。

―― 荷物の少ない人がしあわせそうに見えるの分かります。

木本 ぼくら、リュック持ってハンドバッグ持ってトートバッグ持って、さらにスーツケース持って、詰められるだけ詰めてるから(笑)

―― だから、旅行の荷物が少ないのに憧れる。

木本 そう!めっちゃ憧れる。ほんまの、人生という名の旅上手になりたい。フットワーク軽くても余裕がある分のんびりしてて、常に腰を据えてて、大らかな。そこへ行きたいんやけど、自分が「ああなりたい、こうなりたい」っていう性格なんやから、こればっかりはしょうがない(苦笑)。
いまはその欲望の道を経由して、行き着くところは、荷物な~んにも持ってない60代のオジサン。そこにたどり着くための50代でありたいなぁ。

―― 少しずつ、荷物軽くしていきましょう!!

※取材撮影は2020年3月、京都市内で実施。企画タイトルの「得体」とは、本当のこと、正体。気になる人にどうしてるか?なぜ?のお話を聞きに行く、旅するインタビュー記事です(編集部)


取材・文/椿屋 

写真/松村シナ(https://torico-camera.com/


木本武宏(きもと・たけひろ)

1971年5月6日、大阪生まれ。A型。NHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」の田中雄太郎(信楽太郎)役が記憶に新しい。高校時代からの付き合いである妻と愛犬との東京暮らし。2019年4月よりKBS京都で放送中の「週末ライブ キモイリ!」でメインMCを務め、週末は京都で過ごす日々が始まった。 
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